「春や春」(森谷明子・光文社)読了しました。

 

 

 タイトルから想像できるかもしれませんが、俳句をテーマにした小説です。

 

 俳句を始めたばかりの私にとっては、面白くためになる本です。

 俳句、といっても私を含め多くの人にとってどういうものかも詳しくはわかっていないと思います。この本を手に取った人だってその多くは俳句をあまり知らないだろう。そこをとらえて、俳句の基礎や有名な俳句・俳人を物語の中で紹介しながら進んでいきます。

 

 そして、主人公たちが「俳句甲子園(全国高等学校俳句選手権大会)」という実際にある大会を目指し出場する過程で、俳句の面白さや難しさ、奥深さなどを読者に訴えます。

 

 例えば、正岡子規、高浜虚子、山口誓子など誰でも一度は聞いたことのある俳人の代表的な句について、高校生たちが語り合う中でその意味やその句のとらえ方などを紹介しています。

 私など見たことも聞いたこともない「納音」(なっちん。十二支と十干の組み合わせによる60通りの分類に名称をつけ、生年に当ててする占いの一種)などの周辺知識も。「山頭火」も納音の一つだと初めて知りました。

 

 それはさておき、俳句に青春をかける(ひと夏の物語ですが)高校生たちの物語。

 各章は、登場人物一人ひとりが主人公として語る形。登場人物の個性を際立たせています。

 

 最終盤の、それまで選手ではなくマネージャーとして頑張ってきた子が大会に参加することになるくだりには泣かされます。

 ほかにも「青嵐(せいらん)に届け踏切版を蹴る」といった高校生が作ったとされる句を読んで、ちょうど電車のホームに座っていたのですが何だか涙が出てきて、恥ずかしいので本を閉じました(笑)。

 若い人がひたむきに何かに打ち込む、といったことに単純ながら感動してしまう。ジジィになったなと実感します。

 

 本書を通して俳句のことを知れば知るほど、これまでに自分が作った句(たった10句ですが・笑)の稚拙さが思い知らされます。俳句の体をなしていないかもしれない。本書に出てくる高校生に見せたら、俳句の基礎を学んで出直して来てください、などといわれるでしょう。

 でも、それで良いのだと思います。私は別に勝負をするために俳句を始めたのではありません。人生を豊かに楽しむために(そして脳トレになるし)始めた訳で。

 

 自作と相手の句を並べてディベートして審査される。高校生がガチで勝負するこの俳句甲子園のような場があってもいいし、私のように還暦を過ぎた爺が基礎も知らないけれどユルユル楽しむのがあってもいい。

 本書でも素人顧問の先生が「俳句は基本的に勝ち負けではない」と。そのとおり。

 それぞれがそれぞれの形で楽しめば良い、というのがベタですが結論でした。