「空と風と時と 小田和正の世界」読後感想の最終回です。

 

 

 子どもの頃から小田さんに心酔していた私ですが、ソロになってからの小田さんをほとんどフォローしていませんでした。ちょうど仕事も忙しく、子どもたちのサッカーやら何やらで余裕がなかったこともありますが、心にグッと来るものがなかったことも確かです。

 

 しかし・・・

 やってくれました、小田さん。「クリスマスの約束」です!

 その実現に至る経緯も含め、「第8章 クリスマスの約束 2001-2009」に詳細に描かれています。これは面白い!例えば、山下達郎に出演依頼をした際、丁寧な断りの手紙の中にも「もともとこの曲(クリスマス・イブ)という曲はオフコースに触発されて作ったものです。」って。マジですか?あの名曲が・・・

 

 最初にこの番組を見たのはいつだったでしょうか。小田さん一人ではなかったから2003年以降であることは確か。雷に打たれたような強烈な衝撃を受けました。一流アーティストによる圧倒的な声量と単純な和音を超えた多重のハーモニー。これは画期的な、事件と言っても良いような試みだと思いました。「音楽のチカラ」を思い知らされた、って感じです。

 

 興奮して、録画を家内にも見せ、その後何度も繰り返して見たのを覚えています。

 「22分50秒」(2009年)の作成過程と実際のパフォーマンスを描いた部分を読んで、納得です。

 今年のクリスマスには是非「クリ約」やってもらいたいなぁ。

 

 本書は「序章」、「第1章 小田薬局」から「第10章 さよならは 言わない」の全11章から成っていますが、第3章から第9章までの章の間に2022年に行われたツアー「Kazumasa Oda Tour 2002 "こんど、君と"」にまつわるエピソードが「LOOKING BACK 2022」として書かれています。

 

 それぞれに興味深いし笑える部分もある内容ですが(特に小田さんのMCの話)、音楽的になるほど、と思ったのが、2011年からツアー全行程に参加するようになったというストリングス(第一・第二バイオリン、ビオラ、チェロ)の第一バイオリン・金原千恵子さんの話。

 ストリングスのアレンジも小田さん自身がやっているそうで、「…第二バイオリンとビオラの内声の使い方がすごく上手で、独特。四人で弾いてもすごいけど、何十人かで弾くと、滲むというか、水彩画みたいな、小田さんのカラーがすごく出ている感じがします」というもの(以前、合唱やっていたとき、上からソプラノ・女声、アルト・女声、テノール・男声、バス・男声のあると、テノールを内声と言うと知りました。)。

 これは「クリ約」の重層的なハーモニーが独特で素晴らしく聞こえるのに通じているのだと思います。

 

 最終章「第10章 さよならは 言わない 2020-2023」は、新型コロナに振り回された3年間を描いています。その中でも、いろいろありながら70歳を超えた小田さんは精力的にコンサートをこなしている。この最終章にアルバム「ワインの匂い」の中の「愛の唄」が取り上げられていることも古いファンとしてはうれしいことです。

 

 この本を読み終えて思うのは、また小田和正、オフコースを聴いてみようということです。

 2年前に久しぶりにCD「early summer 2022」を買ってしばらくヘビロテしていましたが、その後は聴かなくなっていました。

 76歳になった小田さん。そして考えてみれば中学生で強烈な感動とともにオフコース・小田和正を知った私も既に還暦を過ぎました。

 小田さんを知ってから50年近くになるけれど、そして特に中学生の頃から30歳前頃まで夢中になって聴いていた時期があるけれど、本書でこれまで知らなかった小田さんを知ることになり、それを踏まえてまた聴いてみたいと思うようになりました。

 私の余生もまた豊かさを増すのではないかと思います。

 

(終わり)