「どうしたら、毎日12時間以上の勉強を続けることができるのか?」
司法試験合格後、よく訊ねられた。


単純に1日24時間から勉強時間の12時間を差し引いて、残りの12時間を「睡眠」「食事」「入浴」「移動」にあてろと答えたのでは身も蓋もない。
1日12時間の勉強を1週間続けることなら、おそらく誰でもできるだろう。
しかし、それを1年以上続けるにはコツがある。


第一に重要なことは、できるだけ「トレードオフの機会」を少なくしてしまうことだ。
「どちらにしようか迷ったり、悩んだりする事柄」を意図的に減らすのだ。
私は、朝食はカロリーメイトとパックのグレープフルーツジュース、昼食はうどんとほうれん草、冷や奴にパイナップルと決めておき、図書館で座る場所も決めていた(先客がいれば、第二志望に迷わず座る)。
その日にやるべき課題も事前に決めておき、機械的に次々と消化していった。


「われわれ人間は、常にトレードオフに直面している」というのが経済学の原則だ。
「トレードオフの機会」を減らしてしまえば、時間の無駄もなくなる。


「毎日同じものを食べるのは栄養が偏る。真似はしない」と、某受験生に指摘されたことがあった。
どうやら、私の伝え方が悪かったようだ。
私の意図は「トレードオフの機会」を少なくすることであって、「毎日同じものを修行僧のように食べろ」という訳ではない。


どうでもいいことに迷わないようして、余計なエネルギーを使わないようにするということだ。
スティーブ・ジョブズが、黒のタートルネックとジーンズで通したのも、余計なエネルギーを使わないためだったと言われている。


第二に重要なことは、日々の報酬を自分に与えることだ。
9時半の閉館時間近くになると図書館を追い出されたので、10時近くに夕食をとっていたが、毎日缶ビールを欠かさず飲んでいた(本試験前日も飲んでいた)。
つまり、その日のタスクを無事に終えたら、後は自由時間にして自分を解放する。
その儀式が缶ビールと夕食だ。

週に2冊、漫画雑誌を定期的に購入していたのも、細やかな報酬の一つだ。


図書館は、朝8時半に開館して9時半に閉館なので、昼食時間を差し引いても12時間はしっかり勉強できる。
サラリーマン時代より早く帰宅してビールが飲めるのだから、何ら苦痛は感じなかった。


娘の中学受験勉強中も、塾のない日や土日は、勉強は8時で終わりして後は入浴してゆっくりと夕食を食べさせた。
好きなテレビやDVDも自由にたっぷり観ることができた。


このように、長丁場を継続していくのに細やかな報酬は効果的だ。
毎晩の寝酒を楽しみに、大学受験勉強をしていたという同級生もいる(昨今は未成年者の飲酒が厳しくなったので、決してオススメはしない)。


「今日は何をしようか?」などと迷うことなく早々に着手して、その日のタスクを終えれば細やかな報酬を与える。
このシステム化は、勉強や仕事だけでなくダイエットや運動にも役立つだろう。


毎日、決まった時間に決まったコースをランニングし、終わったら熱い風呂とビールというのも大いにアリだ。


目的を決めたら、それを妨げる「トレードオフの機会」を極力減らし、モチベーション維持のための「細やかな報酬」を確保する。
人間は案外単純なので、これをしばらく続ければ習慣化できてしまうものだ。

強い意志力はさほど必要ではない。

騙されたと思ってしばらく試してみて欲しい。