「レビット ミクロ経済学」(発展編)の11ページに以下のような記述がある。

 

参入障壁に関しては、おぼえておくべき重要な点が1つある。永続することは滅多にない、という点である。参入障壁に守られた生産者余剰が大きければ、どれほど堅固な障壁でも、最終的には突破する方法を見つけることができる。

 

同書では、1900年代初めのイギリスのプランテーションが世界のゴム需要の95%を満たしていたが、第二次大戦後、安価な合成ゴムの開発により独占が崩壊した例。

デュポン社が合成素材のナイロンを発明して特許を取得したが、遜色のない合成素材が開発されて独占が崩壊した例が挙げられている。

同じページで、政府による規制の例としてタクシーの営業免許が70万ドル以上もしていることが紹介されている。

 

参入障壁のない世界では、生産者余剰の大きい分野には新規参入が増加してしまい、(旨みである)超過利潤がゼロになってしまう。

つまり、参入障壁は、新規参入を禁止・制限することにより、障壁内部にいる企業や個人に自由競争では到底得られない大きな利益を享受させる働きをしている。

 

「レビット ミクロ経済学」に書かれているように、技術的な参入障壁は(たとえ特許権で守られていても)技術進歩に伴う代替材の開発によって失われる。

とりわけメリットが大きければ大きいほど代替材の開発意欲が高くなる。

もちろん、参入障壁が効力を有する間に巨額の利益を得ることは十分に可能だ。さもなくば、製薬会社は研究開発意欲を失うだろう。

 

今の日本の労働市場では、大企業の正社員や公務員と、非正規社員と非正規公務員の間に大きな参入障壁が存在する。

大企業等は、原則として新卒一括採用でしか人材の参入を認めていない。

転職市場も整備されつつあるが、前職が大企業従業員(もしくはそれと同視できるキャリア)でないと高い参入障壁を越えるのは極めて困難だ。

この参入障壁が強固なため、「働かずに好待遇を享受している正社員」と「働いても待遇の上がらない非正規社員」が併存しているのが現状だ。

 

このような現状を改善すべく、政府はフリーランスの報酬を高める工夫を試みているようだ。

しかし、そんな対処療法ではなく、参入障壁を低くする(もしくはなくする)ことこそ正しい方向性だ。

強固なまでの解雇規制を緩和・撤廃すれば参入障壁はグンと低くなり、生産性の低い人材は退出を余儀なくされ、代わって生産性の高い人材を入れることができる。

生産性の低い人材には、とりあえず相応の分野が開かれているので、リベンジの可能性は十分ある。

 

「そんなこと実現するわけがない」と楽観視している人たちは、参入障壁で守られていたかつての銀行の苦境を見れば、「他人事」とは思えなくなるだろう。

長期信用銀行法という法律で守られていた長信銀3行が次々と姿を消したのは比較的近年のことだ。

 

一流企業に就職した新入社員諸氏は「これで一生安泰」などと安心してはいけない。

レビットの言葉を今一度引用しよう。

「おぼえておくべき重要な点が1つある。(参入障壁が)永続することは滅多にない、という点である」