経済学において、「限界費用(marginal cost)とは、生産量を小さく一単位だけ増加させたとき、総費用がどれだけ増加するかを考えたときの、その増加分を指す」と定義されています。

 

具体的に考えてみましょう。

ある工場で製品を10個作るのに、1日の総費用(原材料費、人件費等)が10万円かかるとしましょう。ある日、11個(プラス1個)作らなければならなくなりました。プラス1個作るために上昇する総費用分が限界費用です。残業や余計な電気代等がかからずに余分に1個作れるのであれば、限界費用は原材料費程度でしょう。

では、1個当りの余分な原材料費がゼロだとすればどうなるでしょう?

例えば、空席のある映画館でお客さんが一人増えた時の限界費用はいくらでしょうか?

映画館は、(お客さんの多寡に関わらず)スケジュールに合わせて映画を上映するので、お客さんの数が1人増えても余分な費用は発生しません。つまり、「限界費用ゼロ」なのです。

これは、電車や機内サービスなしの航空機でも同じです。乗客が1人であっても100人であっても運行費用は同じなので、「限界費用ゼロ」のサービスとなります。

 

IoTが進歩すると限界費用がゼロになり、企業の利益がゼロになると説く書籍もありますが(「限界費用ゼロ社会」ジェレミー・リフキン著)、それはさておき限界費用ゼロのサービスは今の世の中にたくさんあります。先の映画館や電車、航空機などはその典型例です。

ゼロとまではいかなくとも、限りなくゼロに近い場合もあるでしょう。閉店間際の生鮮食料品店などが好例です。売れ残りを廃棄しなければならないのであれば、閉店間際に売れた商品の限界費用は限りなくゼロに近づきます。

 

昨今、バスや電車の空きスペースで荷物を運ぶという試みがなされています。これは、運送費という総費用を上げずに新しい効用を生み出す優れたシステムです。社会全体の総費用を上げることなく総効用をアップすることができるのですから。

世の中を見渡すと、「限界費用ゼロ」もしくは極めてゼロに近いケースが溢れています。週に一度しか利用しない自家用車を残りの6日間貸し出すというシェアリングエコノミーも、(利用頻度によって大きな違いの生じない)自動車の維持費を総費用と捉えれば、限界費用ゼロに近いものです。

 

昨今、米国で映画館の定額制サービスが生まれたというニュースが出ていました。極めて低い月間利用料金を支払えば、毎日、どこの映画館でも映画を見放題というサービスです。先述したように、映画館は「限界費用ゼロ」サービスなので、観客が増えても総費用は変わりません。それどころか、観客が増えれば、飲食物やキャラクターグッズが売れて利益増になる可能性があります。

音楽や映像の定額配信サービスも、限界費用はせいぜい著作権使用料くらいです。一日中利用している人はいないので、低価格で提供しても十分モトが取れるのです。

「限界費用ゼロ」またはそれに近いサービス提供ができる産業こそが、近未来の先端産業になるものと私は確信しています。このようなサービスが、社会全体の総費用を抑えて総効用を上げて社会貢献をするという点からも、大いに注目すべきだと考えています。