「価格は需要曲線と供給曲線が交差する点で決まる」というのが経済学の大原則であり、これはかなり多くの人々が知っていると思います。右肩下がりの需要曲線と右肩上がりの供給曲線がXの文字のようになって、その交点で(自ずから)価格が決定されるというものです。

 

ところが、現行法上、この需要曲線と供給曲線による価格決定が制限されているケースがたくさんあります。書籍や新聞、タクシー運賃のような「一種の定価販売」、最低賃金法のように下限の制限、はたまた覚せい剤のように原則として売買が禁止されているものもあります。昨今は、コンサートチケットのネット転売が炎上しており、定価で顧客の手に渡る方策が講じられようとしています。

 

これらの制限は、需要と供給による価格決定を無視したものなのに、なぜ正当化されているのでしょう?

それを論じる前に、重要曲線と供給曲線について一通りご説明したいと思います。というのは、「一流大学の経済学部の大学院生が、需要曲線が右肩下がりであることを理解していない」という驚くべき事実を某書籍で読んだからです。そもそも需要曲線と供給曲線の理解がなければ、それを無視した法律的な制限を論じる意味がありませんから。

まず、「大学院生が理解していない」という需要曲線が右肩下がりである点をご説明します。あくまで、法学部の学部しか卒業していない私の理解ですので、間違っていたらよろしくご指摘下さい。

 

G社の高級チョコレート1個を例にとりましょう。

Aさんはこのチョコレートが死ぬほど好きで、1個につき1000円以上の価値を見出しています。Bさんもこのチョコレートが大好きなので900円以上の価値は見出していますが、Aさんのように1000円を出してまで欲しいとは思いません。同じように、Cさんは、800円以上900円未満。Dさんは、700円以上800円未満としましょう。

 

さて、チョコレートが1個1000円だとすると、Aさんしか買う人はいません。そこでAさんは考えます。「1000円だったら1個しか買えないわ。2個買って2000円も払うのはちょっとね…」と。ということで、このチョコレートの価格が1000円の場合は、Aさんが1個しか買わないので、販売個数(グラグの横軸です)は1個になります(縦軸の価格1000円、横軸の量(個数)1個)。

 

チョコレートが900円になれば、Bさんが買うので(Aさんの1個と合わせ得て)合計個数は2個になります。いえいえ、2個で1900円なら、誘惑に弱いAさんが2個買うかもしれませんので、合計3個としましょうか。(縦軸の価格900円、横軸の量(個数)3個)。

 

同じように、チョコレートの価格が800円になれば、Cさんも参加してくるので、誘惑に弱いAさんとBさんが更に1個余分に買うと(A3、B2、C1となって)合計6個になるでしょう。AさんとBさんが余分に買うのを諦めても、(A2、B1、C1)となって4個になるので900円の時よりも個数は増加します。ここでは、AさんとBさんが誘惑に負けたとして、縦軸の価格800円、横軸の量(個数)6個としましょう。

 

このように、チョコレートの価格がどんどん下がってけば、売れる量(個数)が増えていくのです。つまり、縦軸の価格が下に行けばいくほど、横軸の量は右側に増えていき、それをつなぐと右肩下がりの需要曲線が描けるのです(本ケースの例では右下りの階段のような形になりますが…仮に1円単位で価格と個数が動くとすれば曲線に近くなります)。

 

これは、参加者がAさん1人の場合でも同じです。

「1000円だったら1個しか買わないわ。でも900円なら2個買っておきたい。まあ800円!それなら3個…」と、財布のお金がなくなるまで買うかもしれません。価格が下がれば、売れる個数も増えるのです。

 

次に、供給曲線が右肩上りになる点についてご説明しましょう。

 

大手スーパーaであれば、大量に仕入れたりセール品扱いできるので、チョコレートを100円で売ることができるとしましょう。しかし、中規模スーパーbだと「200円なら売ることができるけど100円だと赤字になるから売れないや」ということがあります。個人商店cだと「200円なんてとてもとても、300円で売らなきゃ採算が合わないよ」ということもあるでしょう。

 

価格が100円なら、aが販売する10個だけしか「売り物」に出されません。しかし、200円ならbが参加して(世の中に売り物として出されるチョコレートは)20個に、300円ならcが参加して30個になるでしょう。このように、価格が上がれば、世の中に出される売り物の個数が増えていくのです。

 

縦軸が価格で横軸が量ですから、価格が上に上がれば量も右側に増えるという右肩上がりの曲線ができあがるのです(単位が細かくなれば曲線になるのは需要曲線と同じです)。

 

こうやって、需要曲線と供給曲線が500円で交差したとしましょう。

 

買い手はもっと安くなる方がうれしいので、400円、300円、200円となるのを期待します。しかし、先のようにaとbとcの合計売り個数30個は既に売り切れています。cの次に出て来るdは400円以上でなければ売りません。そして、その次のeは500円以上、dは600円以上でなければ、それぞれ売らないので、新たに売り物となるチョコレートの値段はどんどん上がっていきます。

 

つまり、500円以上で欲しい人達が(世間に出回っていた)チョコレートを全部買ってしまうので、余分に欲しい人達は「600円なら売るというd」や「700円なら売るというf」から高値で買うしかないのです。通常であれば、「そんな値段だったらいらないわ。来週、aやbに入荷があった時に買うから」ということになりますよね。だから、600円や700円で売ろうとしている店があっても、現実には売れなくなってしまうのです。

 

ふー、とても疲れました。

 

グラフなしで説明するのは本当に難しいですね〜。

ということで、価格は(需要曲線と供給曲線の交点である)500円に決まるということをご理解いただけたでしょうか?

消費者余剰、生産者余剰、総余剰という概念も、需要供給曲線で説明できるのですが、まあ…ここでは省略しましょう。次回以降に、法規制との関係をご説明します。

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