先日読んでいた「大局を読む」(長谷川慶太郎著 徳間書店)に、大変ショッキングなことが書かれていました。住宅ローン金利が史上最低の0.5%割れを起こしているにもかかわらず、未済が3割近くに上っているとのことです。当該箇所を同書から引用すると以下のようになります。

 

住宅ローンの未済、つまり住宅ローンを借りた人が契約どおりに返済できないというのが住宅ローン全体の3割近くに上っている。銀行のいちばんの恥部だ。そのことについて住宅業界や銀行業界から広告をもらっているマスコミは目をつぶっている。銀行によって住宅ローンの未済の割合は違うけれども、未成の物件は競売にかけなくてはいけないので、今はどこの裁判所でも競売担当の部署は人でごった返している。

 

その原因は次のように書かれています。

若い人には非正規社員が増えているし、正規社員でもシャープや東芝の例を見ればあきらかなように大企業といえどもいつリストラされるかわからない。中小企業ならなおさらで、安定した雇用で長期間の住宅ローンを払い続けるという点では厳しい時代になってきた。

 

長谷川氏には失礼ですが、本当に理由はこれだけなのでしょうか?同書には「銀行が与信の低い人たちにまで貸し付けるはずがない」という記述もあるので、貸し付ける時点で借りてはそれなりに信用があったのでしょう。他の原因を私なりに推測すると、貸付後(個人にとっては借り入れ後)の次のような事情が影響しているのではないでしょうか?

 

まず、実質賃金の低下が原因のひとつではないかと考えます。いつを基準とするかによって異なりますので各自お調べいただきたいのですが、私がざっとグーグル検索した結果、財務省の資料で1991年から2012年の間に「実質賃金の大幅な減少」というPDF、最近の記事では「4年連続実質賃金低下」という記事がヒットしました。アバウトに言ってしまえば、バブル崩壊後実質賃金は下がり続けているのでしょう。

 

実際、私の大学時代の同級生には「30代に課長になってからずっと年収が減っている」と言う友人が複数人いました。大手銀行も、バブル崩壊前は「30歳を過ぎれば年収1000万円」と言われていたのに、今では定年(もしくは転籍)まで年収1000万円を死守するのに必死だそうです。昔は、出世しない窓際族でも50歳あたりだと年収2000万円はあったそうです。

 

もう一つの原因として考えられるのは、教育費の高騰です。今や、全て国公立で通しても子供一人大学を卒業させるまでに1000万円近くかかるそうです。私立が入ったり塾や予備校が入れば、教育費はもっと膨らみます。私自身の経験からも、娘一人大学を出すまでに本当にあれやこれやとお金がかかり、社会人になってくれてホッと一息つけました。

 

長谷川氏が指摘している「雇用の不安定化」と併せて、実質賃金の長期低下傾向と教育費の増大があるとすれば、これからも住宅ローンの支払は本当に大変になってきます。もしかしたら、低金利を量でカバーしようとして銀行が信用力に疑問符の付く人にも安易に貸し出しているのかもしれません(それなら少し安心です)。いずれにしても、ショッキングな事実に気づかせていただた長谷川慶太郎氏に感謝するとともに、それを報じないマスコミの姿勢にいささか憤りを感じた次第です。