このところ、妻の内助の功を正当に評価しようとする動きが顕著です。

相続に際して実質的共有部分というものを考え、妻を手厚く保護しようとする考えも出ています。


しかし、離婚や遺産分割の案件をたくさん受任してきたわが身としては、少しばかりの戸惑いを感じます。


具体例を挙げてみましょう。


A子さんは商業高校卒業後、某総合病院で事務の仕事をしていました。

A子さんの美貌は目を見張るものがあり、多くの男性は彼女に目を奪われました。

激烈な競争を勝ち抜いた産婦人科医の先生がA子さんとめでたく結婚することになり、結婚を機に産婦人科医院を開業することになりました。

A子さんは専業主婦に収まりましたが、家事能力がゼロだったことから家のことは家政婦さんに全てお任せでした。

子どもが二人生まれましたが、子どもの教育に自身のないA子さんは二人の子どもに家庭教師をつけて、自分はセレブ友達とゴルフ三昧の日々でした。


B子さんは国立大学の教育学部を卒業後、公立小学校の先生をしていました。

B子さんは誰にでも好かれる性格と愛らしい容貌を持っていたため、先生仲間の男性陣から引く手あまたでした。

激烈な競争を勝ち抜いた若い先生がB子さんとめでたく結婚することになり、結婚を機に個人塾を開業することになりました。

B子さんは経営基盤が不安定な夫を助けるため、学校の先生を続けながら家事一切を引き受けました。

生まれた子ども二人の教育は、(夫が夕方からの仕事だったことから)B子さんが一手に引き受け、まさに大車輪のような毎日でした。


A子さんとB子さんが50歳の時、夫の浮気が発覚しました。

二人とも頭に血が上って、あろうことか荘司弁護士に離婚調停を依頼しました。

A子さんの状況を見た荘司弁護士は思わず笑みがこぼれました。

産婦人科医院は大繁盛しており、預貯金と不動産を併せた財産は約3億円もあります。

「しめしめ・・・最低でも1億円は取れそうだ。そうすると弁護士報酬トータルで1000万も夢じゃない」

B子さんの状況を見た荘司弁護士は悩みました。

夫の学習塾は少子化の影響で経営が厳しく、家と土地も公務員のB子さんがローンで借りて買ったものでB子さん名義、その家は夫が学習塾に使っています。

「どうすればいいんだ!財産のない夫から金を取るなんて絶対にムリ。せいぜいB子さん名義の家土地の明け渡しができれば御の字だ。そうはいっても夫は生活の基盤を失うわけだから、些少なりとも解決金を払わないと円満に出て行ってくれないかもしれない」


調停の結果、家事育児をまったくせずにゴルフ三昧だったA子さんは1億1000万円の解決金を受け取りました(1000万円は荘司弁護士の着手金と成功報酬に充てられました)。

対して、家事育児を全面的に引き受けてきたB子さんは慰謝料を放棄する代わりに家土地を明け渡してもらいました(荘司弁護士には30万円の着手金を支払いましたが、金銭的利益がなかったので報酬は不要とのことでした)。

荘司弁護士はつくづく思いました。

「内助の功って一体何なんだろう?どう考えてもB子さんの方が努力賞、いや大賞かもしれない。A子さんは、身から出た鯖、いや錆なんじゃないだろうか。どちらの事件の方が揉めたかって?そりゃあ、B子さんのほうさ。双方共に泣きわめいて収拾がつかなかった。A子さんの夫は驚くほどあっさりと1億1000万円に同意してくれた。こういうのを貧すれば鈍すると表現するのはあまりにも悲しすぎるよな~」

余計なことですが、私は着手報酬併せて1000万円以上の弁護士報酬をいただいたことは過去2回しかありません。相続案件と法人案件で、離婚事件の最高額は着手報酬合わせて100万円以上があったかなかったか・・・です。

昔の日弁連の基準のように「着手30万 報酬30万」、高めの時は「着手50万 報酬50万」と離婚事件では着手金と報酬金を揃えて設定していたのと、もともと共有財産だったのを分割しただけに過ぎないという意識があったためです。


最近のトレンドが、あまりにも形式的かつ一刀両断的に妻の座を守っているような気がするのは私だけでしょうか?

調停や訴訟件数が増えたからといって形式的な線引きで早期解決を図ろうとするのは悪い意味でのお役所仕事になっているのではないでしょうか?

実態に即した柔軟な解決を模索することこそ、(たとえ時間がかかっても)はるかに社会的正義や交平の見地から望ましいのではないでしょうか?


みなさん、いかがでしょう?