弁護士にとって依頼者はお客様であり、(顧問先も含めた)依頼者なしに生計を立てることはできません。

しかしながら、依頼者の中にはモンスターと呼んでもおかしくない面々がかなりの割合で存在します。

今日は、弁護士泣かせのモンスタークライアンツにを分類して説明したいと思います。


1 豹変型モンスター


受任時も処理中も素直でおとなしい依頼者だった人が、報酬の段になると豹変して弁護士に対して攻撃的になるタイプを指します。

おそらく、弁護士にとって最も恐ろしい依頼者といえるでしょう。


依頼された案件が成功裡に終わって多額の利益を得た時によく現れます。

3000万円の現金を勝ち取って、「着手金は30万円で抑えたけれどようやく1割の成功報酬300万円がもらえる」と喜んでいたりすると、依頼者が突然豹変して「頼んだことの半分もやってくれなかったかのだから報酬なんか払わない」というふうに根拠なきクレームをつけて攻撃的になるのです。

クレームのほとんどは言いがかりであったり、時として空想としか考えられない無茶苦茶なことなのですが、大変な剣幕でとりつく島がありません。

簡単に言ってしまえば、喧嘩をふっかけて報酬をチャラにしようする輩です。

私の経験では、高齢者が多かったですね。


こういう依頼者に当たったとき、利益が預かり金口座に入っていれば相殺できるのですが、そうでない場合はかなり悲しいです。

訴訟を起こして回収してやろうと一瞬考えたりもしますが、私はさっさと忘れることにしていました。

後ろ向きの仕事は心身をすり減らしますし、そういう輩は必ず弁護士会に懲戒申立をするからです。

この上、貴重な時間までとられたのでは堪りません。


豹変型の特徴としては、「成功報酬でしっかりお支払いしますから、着手金はできるだけ少なめでお願いします」と人が多いような気がします。もちろん、相続案件のように事案の性質上報酬の比重が高くなってしまう案件があるので、全てがそうという訳では決してありません。


対策としては、弁護委任契約書をきちんと作成して利益はできる限り預かり金口座に振り込んでもらうようにすることでしょう。

弁護委任契約書をきちんと作成してないと、言った言わないの水掛け論になり挙げ句の果てには業務上横領の疑いをかけられるかもしれませんから。



2 要求追加型モンスター


依頼を受けた段階では10の内容だったはずが、着手金を支払った途端に15になり、さらには20になり、いつの間にか30になっているようなタイプを指します。

請求金額が上がっていくタイプと異なった請求を追加してくるタイプに大きく分けられます。


前者は、弁護士の着手金が請求金額に左右されることを知っていて着手金を値切る輩ですが、あまり悪質ではありません。

報酬の段階で精算すれば済むことですから。

それに対して後者はとても厄介です。

離婚事件で受任して、浮気相手に対する慰謝料請求のトッピングの求められるのは日常茶飯事で、30万円の着手金で訴訟を2つ提起しなければならないこともあります。

ひどい依頼者になると、受任事件と全く無関係の案件までトッピングをねだってきます。


要求追加型モンスター対策としては、弁護委任契約書をきちんと作成しておくことに尽きるでしょう。

「委任内容」を明確に記載しておいて、追加要求に応じられない場合はその旨きちんと説明するしかありません。

追加要求を断ると、当初の案件についてもギクシャクするものです。

ここは大人になって「仕事は仕事」と割り切ることをお勧めします。

相手が喧嘩をふっかけてきても、解任されるまでは黙々と仕事を進めましょう。


3 引用型モンスター


被告事件を受任した時に多く、「某先生に聞いたら着手金はもっと安いと言っていた」「週刊誌の記事では私の方が逆に請求できると書いてあった」「テレビでは・・・」というふうに自分にとって都合のいい情報を引用して着手金の一部返金を求めたり、相手方に対する無謀な請求を求めるなタイプです。

事件処理がある程度進んだ段階でこういうクレームがくると本当に悩ましいものです。

受任当初であれば着手金を全額返金して二度と会わないようにもできますが、事件が進んでしまうと安易に辞任もできません。


引用型モンスター対策としては、まず気持ちをしっかり持つことです。

正しい仕事をしていれば、某先生や週刊誌やテレビが何であろうとうろたえる必要はないからです。

その上で、「引用」を丁寧に潰していって説得しましょう。

彼ら彼女らの多くは、盲目的かつ断片的に引用していることが多いので、引用もとを明らかにして論理的に説明すれば不承不承納得する人が少なくありません。

無責任な第三者に踊らされているケースもたくさんあります。

「弁護士に依頼した」「着手金はいくらだった?」「50万円だった」「それは高い!○○さんは某先生に30万円でやってもらったはずだ」「ええ~。20万円も高いのか?」というような会話は日常茶飯事なのです。


このケースでも弁護委任契約書を作成しておくとことが重要です。

最悪の場合には、

「お渡しした弁護委任契約書を弁護士会に持っていて確認して下さい」

と開き直る(?)ことができますから。



まだまだモンスタークライアンツのタイプはたくさんありますが、今回はこの程度で。


いずれにしても、弁護委任契約書をしっかり作成して、正しい仕事をすることが最大の対応策であります。

あざとい仕事をしているとモンスタークライアンツの餌食になってバッジを失う羽目にもなりかねません。まあ、自業自得なのですが・・・(^^;)