今回は、「心の病が職場を潰す」(岩波明著 新潮新書)をご紹介してます。


本書は以下の7章で構成されています。


1 それはいつから広がったか

2 疲弊する職場

3 その病をよく知るために

4 日本の職場の問題点

5 職場に戻れる場合、去る場合

6 過労自殺という最悪のケース

7 問題の本質はどこにあるのか


本書では、日本の職場環境が極めて厳しくなっており、それが原因でうつ病を中心としたこころの病が蔓延している現状を指摘しています。

日本の職場の多くで、従業員はサービス残業を含む長時間労働を強いられています。

日本社会では一度ドロップアウトしてしまうとセカンドチャンスを得ることが困難だという構造をもっているため、精神的に厳しくても医師の受診や休養をためらう人がたくさんいます。

心の病に罹患しただけでリストラという憂き目にあったり、産業医がグルになって復帰をさまたげるという酷いケースも見受けられます。

もっとも、経営者は会社の利益を出さなければならない立場にあるので、一概に悪者扱いもできません。


最近流行している「新型うつ」は医学的に認知されたものではなく、マスコミ受けをねらったキワモノです。

「新型うつ病」という病名は、タレント精神科医の香山リカ氏の著作から広がったものです。

このような病気(もどき)を悪用する者も相当数存在し、「もらえないと自殺するしかない」などと主張して障害年金を不正受給するのです。

一年間で最大100万円の支給ですが、遡って申請すると500万円くらいが振り込まれることもあり、申請書を作成した社労士の成功報酬も高額になります。


うつ病の治療には、十分な休養と抗うつ剤の適切な服用が一般的ですが、薬物療法のすべてを批判、否認する論者もいます。


(引用及び要約はすべて私の責任です)



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本書を一読して、「さもあらん」という思いと「これは何だ」という思いをしました。


著者は、職場での「心の病」の蔓延の原因として、長時間労働と日本の社会構造を挙げています。

この点について異論はありませんが、個人的には「絶え間ない後ろ向きの仕事」が拍車をかけているように感じます。

前向きの仕事に比べて後ろ向きの仕事は何倍も何十倍もストレスがかかり心身を蝕む恐れがあるのではないでしょうか?


唖然としたのは、障害年金詐欺が横行しているということです。

著者は犯人を「若者」と断定しているように読めますが、決して「若者」だけではないと思います。

「心の病」に苦しみながら高額な税金を納め、障害年金の存在を本書で初めて知った私としては、怒りを通り越してしまいました。

今まで支払った税金の半分でいいので返してくれないでしょうか(^^;)


薬については、「投薬原理主義」も「アンチ投薬原理主義」も信用できません。無理せず、各人の状況に応じて柔軟に対処することが一番だと思います。

残念なのは、現状では適切な精神医療へのアクセスが困難だということです。

長時間待って5分診療という現状は、決して医師等の医療従事者の責任ではありません。

制度的な歪みが、精神医療の窓口にもきています。


本書は、患者側と経営側の双方に配慮したバランスのとれた内容になっています。

多くの方々に読んでいただきたい一冊です。



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