今回は、夏目漱石の「こころ」を取り上げます。
ご紹介するまでもない作品ですし、昨年が「こころ」が朝日新聞に連載開始されて100年に当たるそうです。
以下の”先生”の台詞を引用します。
「君のうちに財産があるなら、今のうちによく始末をつけてもらっておかないといけないと思うがね、余計なお世話だけれども。君のお父さんが達者なうちに、貰うものはちゃんと貰っておくようにしたらどうですか。万一の事があったあとで、一番面倒の起こるのは財産の問題だから」
「田舎者は都会のものより、かえって悪いくらいなものです。それから、君は今、君の親戚なぞの中に、これといって、悪い人間はいないようだといいましたね。しかし悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです」
明治憲法下で家督想像の時代に、最初の引用のように「万一の事があったあとで、一番面倒の起こるのは財産の問題だから」と先生は指摘しています。
また、二番目の引用の中で「平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」という部分も驚きです。
つまり、家督相続が原則の明治時代であっても遺産を巡る争いは存在し、普通の人間が悪人に変わるということがあったのですね。
すくなくとも、漱石の頭には。
私も弁護士業務をしている中で、争続の激しさや人間性を失ったような人たちをたくさん目にしてきました。
”先生”じゃありませんが、「相続財産を残すと相続人の間柄を修復できないくらい悪くして、弁護士を儲けされるだけですよ」「達者なうちに公正証書遺言を書いておくことを強くお勧めします」「長男として会社や田畑を相続するのなら、他の兄弟姉妹に頭を下げて印鑑を貰って下さいね。上から目線で命令すると取り返しがつかないですから」などなどアドバイスをしてきました。
その私自身が、父の相続で痛い思いをしたのですから、どうしようもありません(^^;)
普段から親孝行をしていたはずの母が「急に悪人に変わり」、訴訟手書きの陳述書で私のことを大きく「エゴイスト」と書いたのには腰が抜けました。
その下には、私がスピード違反で捕まったときにゴネて切符を免れたことくらいしか書かれていなかったのですが・・・。
今は、母や兄を恨んだりはしていません。
恨みを抱えて人生を生きていくのは自分のとって有害無益ですから、心の中で精算しました。
ただ、母だから、亡くなったから、という理由で偲んだりもしません。
母であるだけで、亡くなったというだけで、偲んだり拝んだりする必要はないからです。
「こころ」の”先生”は、残念ながら過去を清算する方法をご存じなかったのでしょう。
今日は成人の日ですね。
新成人のみならず、一人でも多くの方が過去を清算してサンクコストにしてしまうという気持ちを持っていただくことを心からお祈りしております。
ブラックバイトにひっかかったら、スッパリ辞めて新しいバイトを探しましょう。
もらえたはずのバイト代を取り返そう躍起になっても、貴重な時間を無駄遣いするばかりですし、恨みは心身を蝕みます。
労働基準監督所に訴え出たら、後は自分自身の貴重な時間を有効活用しましょう。
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