今回は、「シェールガス革命で世界は激変する」(長谷川慶太郎、泉谷渉著 東洋経済新報社)をご紹介します。


本書は、アメリカで起こったシェールガス革命が世界的に極めて大きな影響を及ぼすということを指摘した本です。


2012年発行という2年前の書籍でありながら、現在着々と起こりつつあるエネルギー革命の兆候を見事に予想しています。


シェールガスとは、シェールという固い岩盤層に含まれている天然ガスのことで、従来の技術では採掘できなかったものが昨今の技術開発によって採掘が可能になっています。

アメリカエネルギー情報局(EIA)によると、シェールガスの「技術的回収可能資源量」は約188兆立方メートルで、2008年の世界中の天然ガスの年間消費量が3兆立方メートルであることを考えると、現在の技術だけでも60年以上分もの天然ガスが眠っていることになります。

いかに膨大なエネルギー量か、おわかりいただけるでしょう。


シェール革命が及ぼす影響の中で特に注目すべき点は以下の5つです。


アメリカ経済は金融、製造業共に復活し、世界経済をリードし続ける。

シェール革命による大規模投資において、日本の技術力が必要不可欠になる。

資源価格の下落によって、国際関係のパワーバランスに大変化が生じる。

エネルギー・コストの下落は製品価格を押し下げ、デフレがますます深刻化する。


アメリカ経済が発展することは言うまでもないでしょう。


日本の技術力については、シェールガスを採掘するのに使われている重機等がほとんど日本製であることを考えると、日本の重機メーカーにとっては大きなチャンスになります。

たとえば、採掘にはコマツの重機のように日本製品が使われているし、エネルギーコストの低下によって運賃の低下と需要の増加が見込まれる航空機の世界一のオーバーホール工場はIHIの瑞穂工場です。

また、日本のタクシーの燃料はLPG(液化石油ガス)で、ガス燃料車が国中を走っているのは世界では日本だけです。

本書では、シェールガスを分離すれば良質な水素が得られ”夢のまた夢”といわれた普及価格の燃料電池車が視野に入ってきた。Evを吹っ飛ばして一気に燃料電池車に移行するかもしれない、という業界関係者の話を紹介しています(驚くべきことに、トヨタは先般燃料電池車ミライを発売しましたし、セブン&アイが水素ステーションを半分のコストで設置するという記事が出ていました)。

ジェット燃料が安価になるためLCC運賃は安くなり、日本各地でつくられた地方空港が大いに有効活用できてしまいます。

三菱重工は既に国産のジェット機を開発しています。


ちなみに、ソーラー発電のコストは高く、1キロワットあたり太陽光発電だと42円が政府買い取り価格であるのに対し、シェールガスのコストは石炭よりも安く(本書執筆当時の為替相場で)6円なので、比べものになりません。


このように、エネルギーコストが安価になり、シェールガスから化学製品などがつくられるようになると製品価格が安くなります。

もともと、日本の製造技術は高いので製品が安価になれば国産品が値下がりします。

エネルギー価格の低下は、当然のことながら世界的なデフレを生じさせます。


一方、中東の産油国は経済的には打撃を受けますが、石油を巡る争いが少なくなりますので、平和な社会が訪れます。


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長谷川慶太郎氏は、どちらかというと日本経済や日本の企業に関して楽観的な見方をする人ですので、全面的に信用できるかどうかは各人の判断に委ねざるを得ません。


しかし、2年前に出版された本の内容が、今日現実化されていることに鑑みれば、シェールガス革命は確実に世界を変えていくことになるでしょう。

日本の重工業も大いに繁栄を謳歌できると思います。


問題は、将来、日本の重工業を担う人材、つまり子どもたちが少なく、しかも貧弱な教育投資のために知識や技術を習得できるだけの人数に達することができるかという点です。


私が常日頃から、子どもたちへの投資を呼びかけている理由のひとつとして、チャンスがやってきた時に担い手がいなければどうしようもないではないか、と考えているからです。

みなさん、いかがでしょう?



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