今回は、「ワークシフト」(リンダ・グラットン著 プレジデント社)をご紹介します。


まず、本書はできるだけたくさんの人に読んでもらいたい、私のお勧めする本の中の一冊です。


本書には、未来の人間の働き方、つまり生き方について極めて示唆的な内容が満ち溢れています。

従来から今日に至までの働き方や価値観が劇的に変化し、明るい未来の到来を期待して書かれたものです。


まず、未来の変化を生じさせる5つの要因として、①テクノロジーの進歩、②グローバル化の進展、③人口構成の変化と長寿化、④社会の変化、⑤エネルギー・環境問題の深刻化、を挙げています。


テクノロジーの進歩によって、パソコン1台あれば世界と繋がれる環境ができ、グローバル化が進んでいます。

また、医療技術の進歩等によって長寿化が進みつつあります。

エネルギーや環境問題が深刻化して、航空機、電車、車等での移動が制限されます。


そのような前提に立って、2025年の未来を予測し、暗い未来と明るい未来の二通りの仮説を立てています。


暗い未来では、知識労働者はテクノロジーの進歩とグローバル化で、まさに1年365日を3分刻みで仕事に追われ続けます。

孤独にさいなまれ、人間同士の関係も希薄になります。

また、テクノロジーに取り残されて知的資本を持たない新しい貧困層は、現在の先進国の中心都市から途上国の地方に至るまで地球規模で拡大し、繁栄から閉め出されてしまいます。


一方、明るい未来では、自分自身で人生のあり方を決めることができ、物質的な豊かさよりも生きがいのある人生を優先する人々が増えます。

家庭生活と仕事のバランスを最優先し、物質的な豊かさの追及に重きを置かなくなります。


知的資本、人間関係的資本、情緒的資本を兼ね備えた人たちが中心となって、ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へのシフト、孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へのシフト、大量消費から「情熱を傾けられる経験」へのシフトという、3つのシフトが起こります。


「連続スペシャリスト」というのは、1つの専門性に止まることなく次々と新しい専門性を身に付けていくことを指します。

技術進歩の著しい世の中、1つだけの専門性だけで長寿社会を生き抜くことはできません。

自分の持つ専門性に隣接する新たなニーズに応える専門性を連続的に身につけていく必要があります。


「協力関係」は、自分を中心軸と考えればその周りに自分と関連性のある専門家たちが集まる少人数のボッセがあり、さらにその周辺にはネットで繋がった世界中のビッグアイディア・クラウドが築かれます。

このようなグローバルな人と人との繋がりによって、様々な斬新なアイディアが生まれてきます。


「情熱を傾けられる経験」とは、自分や家族の望ましい生き方を志向していく生き方です。従来の価値感の中心にあった物質的豊かさを犠牲にしてでも、自分たちの生き方を優先するするのです。


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本書は、以前、ご紹介した「フリーエージェント社会の到来」(ダニエル・ピンク著)と比較して読むと、とても理解が深まります。

同書も、私が是非お勧めしたい一冊です。


個々人が自律的に生きていくことができる時代が既にやってきており、将来的にも物質的な豊かさよりもやりがいを持って心豊かに生きることが重視されるようになるでしょう。


従来型の働き方と価値観は、子育てなどの家庭生活を犠牲にして長時間労働を強いられ、物質的な豊かさを報酬として受けるというものです。

現在も多くの知的労働者、たとえば投資銀行員やコンサルタント会社の社員、はたまた医師やコンピュータ技術者、大手事務所の弁護士や会計士の多くは、長時間労働の対価として金銭的報酬を得ています。


英米の学者が共に、生活と仕事のブレンドや物質的豊かさを捨ててでもやりがいのある仕事に就く価値の高さを認識するようになっています。


エネルギー問題については、昨今、シェールガス革命がアメリカで起こっており、明るい未来を予想する識者が増えています。

また、人間の能力としても、知的資本や人間関係資本、情緒的資本だけでなくエロチックアセット(以前、本ブログでご紹介しました)を加える識者もいます。


いずれにしても、個々人が幸せな未来を築くためには「教育」を抜きにしては語れません。

子どもたちの教育は、知的資本、人間関係資本、情緒的資本、はたまたエロチック資本を身に付けさせる上で不可欠なものです。


わが国の子どもたちへの教育投資の貧弱さを考えると、私としては明るい未来を実現できる日本人が少なくなってしまうのではないかと、大いに危惧しています。


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