企業の破産申立代理人や破産管財人になると、必ずといっていいほど「買掛金債務」があります。
買掛金債務というのは、ご存知のように商品などを他社から買ったものの支払いを済ませていない債務のことです。
悪質な会社だと、お金がないのに商品を大量に仕入れて、それを安値で売りさばいて当面の資金繰りにあてながら生きながらえるというケースもあります。
企業間の取引ではいまだに、商品の納入時に「納品書」を渡して、同時もしくは事後に「請求書」を送るという慣行が行われています。
私が、常々、顧問先企業に注意していたのは、
「売りたい気持ちはわかります。ただし、相手の会社の信用力をしっかり調べておいて、危ない先にはいくら好条件であっても売らないで下さいね」
ということです。
最近は、帝国データバンクなどの調査会社が相手方会社の危険生をかなりの精度で調査していますから、調査会社を利用している会社は危ない橋を渡らなくて済むことが多くなっています。
しかし、個人商店に近いような会社だと、調査会社に支払う費用を節約してしまいがちなので、納品先が倒産してから慌てて相談にくるというケースも少なくありません。
大原則は、いくら売り上げ不振に悩んでいても決して危険な相手には納入してはならないということですが、実際問題、売り上げ不振が続いてしまうと大口取引という甘い誘惑には逆らいがたいものです。
万一、納品してしまってから支払いが滞るというような事態が生じてしまったら、迷わずしっかりした弁護士に相談しましょう。
販売した商品が相手の倉庫の中にでも残っていれば超ラッキーです。
民法の動産売買先取特権を利用して、早急に執行手続をとれば損害は最小限度に押さえられる可能性があるからです。
司法試験や他の法律資格の試験でも、民法の先取特権はほとんど出題されないので、知らない弁護士がいるかもしれません。
先取特権というのは法律が定めた担保物件で、当事者の契約などがなくても発生する権利です。
先ほどの例だと、自分の会社が納品した商品が相手の手元に残っていれば、担保権を行使して優先弁済を受けることができるのです。
早急に手続をする必要がありますので、「納品書」や「請求書」は必ず揃えておいて下さいね。
商品が相手の手元にあれば、相手の会社が破産申立をしようが破産宣告を受けようが、動産売買先取特権は行使できます(担保権を優先的に行使できる権利を破産法では別除権と呼んで手厚く保護しています)。
もっとも、最初に挙げた例のように、納入された商品が既に売りさばかれて、その代金も使われてしまっていた(もしくは他の現金と一緒に隠されていた)ら、現実的にはどうしようもありません。
まさに、「無資力の抗弁」(私の造語です)となって、相手に開き直られる羽目に陥ってしまいます。
最悪の場合、連鎖倒産を覚悟しなければなりません。
調査会社を利用していなくとも、納入前には同業者や知り合いに相手先会社のことを聞いておきましょう。
「火のない所に煙は立たない」というのが調査会社のモットーであるように、芳しくない噂を耳にしたら、慎重になる勇気が絶対に必要です。
長い付き合いある取引先であっても、常に頭の片隅に「火のない所に煙は立たない」という言葉を入れておいて下さいね。
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