今回は、「沈みゆく大国アメリカ」(堤未果著 集英社新書)をご紹介します。


2010年に国民皆保険を前提としたオバマケアが成立しました。


しかし、オバマケアのシステムは複雑すぎて、大半のアメリカ人が正確な知識を持っていません。

現場のアメリカで、オバマケアを巡ってどのような事態が生じているのかを批判的な視点から書かれたのが本書です。


まず、オバマケアによると、雇用者負担が大きくなるため、多くの労働者がパートタイム労働者にされてしまいました。

例えば、大学教員は1990年と比較すると2012年はパートタイムが121%増、つまり2倍以上になっています。

大学教員だけでなく、アメリカのほとんどの州で従業員のパートタイム化が進んでいます。

企業保険の負担率が、オバマケア前後で会社側が変わらないのに対して、従業員の負担率は1.45%から2.53%にまで増加しているのです。

つまり、それまで普通に保険に入っていた従業員たちが、パートタイムにさせられたり、自己負担の増額を強いられているのです。


また、医師も患者の治療に当たっては保険会社に逐一相談しなければならないケースが増え、保険会社の窓口では適用拒絶件数のノルマを課された担当者が医師の要請を受け入れなくなっています。

他方、治療がうまくいかないと、弁護士がどんどん訴訟を煽っているため医療訴訟が急増し、医療訴訟で100万ドルを超えるケースは90年代半ばには34%だったのが、2000年には52%に急増しています。

アメリカの訴訟弁護士は、成功報酬のみ(代わりに成功報酬の3分の1と割合が高くなっています)というシステムですので、お金のない人でも弁護士を依頼できるわけです。

その結果、医師は疲弊し、自殺率が高く、ワーキングプア医師も急増しています。


オバマケアで大もうけをしているのは、保険会社、製薬会社、そしてウオール街の投資銀行のみと言えるでしょう。


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本書を読んで、やはりなあ~という感想を私は抱きました。

ご存知のように、アメリカが政府債務は増やせない状態にある以上、皆保険を導入すればゼロサムゲームとなってしまいます。

利益を得る人間が出る分、損失を被る人間が出てしまうのです。

製薬会社や保険会社が合併によって強大化し、マーケットを牛耳るようになれば、搾取されるのは一般の労働者ということになります。

日本のように、歳出としての社会保障費を増やすことはできないのですから。


日本でも、病院が仕入れる医療器機や建物の修繕費、はたまた消耗品費等は、消費税増税によってコスト増になりますので、病院や医院の収益を圧迫しています。

このままでは医療崩壊の方向にすすんでいくしかありません。


アメリカの投資銀行や保険会社は、虎視眈々として高齢者人口が急増する日本の医療マーケットを狙っています。

もはや、オバマケアによって大きな歪みが生じたアメリカを対岸の火事として傍観している場合ではなくなってきているのが、日本の現状でしょう。


本書は、オバマケアという医療制度改革によって生じた社会の歪みについて詳しく書かれています。

いささか、被害者目線に寄りすぎているような気がしますが、医療費が急増しているわが国にとって無視できるものではありません。

すべての国民、わけても医療従事者やお子さんを医学部に入れたいと考えている親御さんたちには、是非、ご一読をお勧めします。



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