不正競争防止法では、企業秘密を漏洩した元従業員だけでなく元従業員を受け入れた会社も損害賠償請求の対象になります。


しかし、日本の中堅・中小企業の多くは「企業秘密」の管理が極めて不徹底と言わざるを得ません。


顧客情報や頭に入ってしまった特殊なノウハウも「企業秘密」となりますので、多くの企業が次のような念書を従業員入社時に書かせたりします。


「私は、御社で知り得た情報を、在職中はもとより退職後にいたっても、一切口外しないことを誓約いたします。」


また、就業規則や入社時の約束事として、退職に際して同業他社への入社、または同業を営むことを禁止する文言が入ることもあります。


しかし、個人には「職業選択の自由」が憲法で保障されています。


競業禁止等も、禁止期間が相当で、地域が限定され、相応の補償が従業員になされるという条件をクリアーしなければ無効と判断するのが判例の傾向です。


時々、不正競争防止法違反を理由に弁護士から損害賠償請求される元社員の相談を受けたり、案件を受任したりしましたが、一度も負けたことはありません。

「営業秘密」を盗んだ証明ができないのがほとんどですし、そもそも前述したように頭に入ってしまっているノウハウ等は消しようがありません。

また、競合他社に入る場合等の禁止事項が広すぎて、全体として禁止規定が無効となる場合がほとんどです。


信頼しすぎた腹心の部下であっても、大きなメリットの前では自分自身の生活や将来が優先するものです。


逆に、さんざん苦労させられた従業員の立場であれば、律儀に念書や就業規則を守る必要はありません。

自分を高く評価してくれる他社への転職や、会得したノウハウで自ら起業するのは自己実現のひとつの姿です。


このような争いが起こると、元の勤務先の経営者と元従業員は、それぞれ自分サイドの正義を並べ立てます。

正義は、各人によって異なる相対的な側面を持っています。


最後は、きちんとした法的知識を持っている方が勝つしかないのです。


ちなみに、私の郷里である三重県伊勢市には、私が子どもの頃から地元の人たちにとても人気が高かった「まんじゅう」を販売している店がありました。

できたてはとても美味しく、伊勢を代表する「赤福」に勝るとも劣らぬほどの味でした。

ところが、ある日突然、その店が閉店してしまいました。

あくまで噂ですが、その独特の「まんじゅう」の作り方は店主のおばあさん以外には誰にも知らされていなかったため、おばあさんの死去によって「まんじゅう」が作れなくなったとのことでした。


特殊なノウハウを守り抜くには、このおばあさんのように肝心な部分は絶対に誰にも教えないという方法しかないのかも知れません。

せめて「秘密証書遺言」で作り方を書いておいて、銀行の貸金庫にでも入れておいてくれたら・・・と、その店の「まんじゅう」が大好きだった私は思ったものです。



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