最近、相続に関する紛争が増加しているようです(統計で確認はしていませんが)。


その背景には、①相続人(子どもたち)の経済状況の悪化、②相続人の将来不安、③権利意識の高まり、④兄弟姉妹の断絶・・・などがあります。


相続の大原則は、被相続人(亡くなった親等)の最終意思の尊重、つまり遺言に従うことです。

被相続人の財産なのですから死後の処分を決める権利も被相続人にあり、それを尊重するのが本来あるべき姿でしょう。


もっとも、被相続人が相続人の1人に全財産を相続させようとしても「遺留分」という制度があり、「遺留分」を有する他の相続人は法定相続分の2分の1の権利があるのです。

個人的には、この制度が相続をややこしくしている元凶で、遺留分制度を廃止すべきだと考えているのですが・・・。


被相続人の遺言がない場合には、法定相続分で分割するのが原則です。


被相続人の財産がしっかり保全されていて、金銭がたっぷりあれば案件としては「良性」と言えるでしょう。

不動産等があったとしても、調停や審判までいけば、当該不動産を裁判所が指定した鑑定士が金銭的に鑑定し、他の金銭と合算して法定相続分で分けることができますから。


ところが、被相続人が寝たきりになっているのを奇貨として、配偶者や同居している長男が被相続人に無断で通帳と印鑑を使って密かに金銭を横領してしまうという例も少なくありません(事実、私はその被害者の一人です)。


また、いざ相続となると「お前は結婚の時に○○万円出してもらったはずだ」「それを言うならあなただって学費で○○万円だしてもらってるじゃないの」という、かなり細かな事情で言い争うケースも毎度のことで珍しくありません。


被相続人から生前にお金をもらったような場合は、「特別受益」になる場合があります。

「特別受益」というのは、生前に土地をもらったり、医学部や歯学部の学費として数千万円出してもらったり、嫁入り道具として数百万円出してもらったような場合に、その分を相続財産に加算して、もらった相続人の相続分から差し引くという制度です。


具体的に、Aさんが1000万円残して亡くなって相続人がBとCの兄弟だとしましょう。

BがAさんの生前に500万円の土地をもらっていたとしたら、1000万円に500万円をプラスして1500万円を相続財産と見なします。

BとCの相続分は半々ですから、本来なら750万円ずつ分けるところですよね。

しかし、現実には1000万円しかありませんので、生前に「特別受益」を得ていなかったCが750万円を、Bが残りの250万円をそれぞれ相続するということになります。


もっとも、この例のように土地の譲渡という明確なものがあればいいのですが、やれ嫁入り道具だとか学費だとかとなるとしっかりした証拠がなければ水掛け論になってしまうことが多いのです。

(なにせ、大昔のことでそのお金をどこから出したかさえ不明確な場合がほとんどですから)

医学部や歯学部の学費のように、現在の学費の額がわかればだいたい明確になりますが、裏口入学のための寄付金まではわかりません。


逆に、被相続人に対して相続人が生前に貢献したような場合は「寄与分」という制度があります。

典型的な例としては、長男が親の商売を手伝って財産を大きくしたような場合に長男の財産拡大に関する貢献度が認められるというものです。


具体的な例として、父が店をやっていてそれを同居している長男が手伝い、切り盛りをしていたところ父が亡くなって1000万円の財産を残したとしましょう。

仮に、長男の貢献度が半分あったとすれば長男は1000万円から優先的に500万円を受け取ることができ、残りの500万円を(長男を含めた)相続人が法定相続分で分け合うということになります。


このように、「特別受益」と「寄与分」は、裏表の関係にあります。

もっとも、「寄与分」は算定がとても難しいので、ここで揉めたら早々に家裁に申し立てた方が解決が早まるでしょう。


では、被相続人が寝たきりになって長男夫婦と同居していたとしたら、これは「寄与分」と認められるでしょうか?


多くの人が誤解していますが、実際の家裁の審判で「寄与分」として認められるのはごく少額なのです。

特別な介護が必要で、ヘルパーさんの代わりをやったとしたら、せいぜいその分のヘルパー料金が認められる程度でしょう。

最近の審判例で、認知症の親を3年間同居して世話を続けた場合に、1日当たり8000円の寄与分を認めたものがありますが、認知症の老人を24時間見てきて1日8000円というのは一般の感覚からすればいささか安いような気がします。


このように、被相続人が生きているうちから争続ははじまり、特別受益や寄与分となるともはや泥沼の争いです。

それを見ていて楽しむ超極悪弁護士もいますが、私は「相続は親兄弟の縁を切って、弁護士を儲けさせるだけだ」と常々言っています。


公正証書遺言を相談者に強くお勧めするのも、そういう考えがあるからです。



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人を説得する極意が書かれています。

何卒よろしくお願い申し上げます。