今回は、「沈黙する証人」(大門剛明著 中公文庫)をご紹介します。
以前ご紹介しました「負け弁・深町代言」シリーズ第2弾です。
活動領域が私の出身地である三重県伊勢市近辺であることから、やや依怙贔屓気味ではありますが・・・まあそういうことで。
主人公は、超イケメン弁護士の深町代言で、外宮前法律事務所に勤務しています。
今回は、居酒屋に車を運転していって泥酔してしまって記憶を失った男が、気が付いたら帰宅しており、運転していた車に傷が付いていました。
したところ、彼の帰り道で車にはねられた被害者がいて、事故現場に落ちていた部品のかけらなどがその男の車のものと一致しました。
泥酔して記憶はないものの、彼が泥酔して運転して事故を起こしたに違いないということで逮捕・勾留されます。
居酒屋から家までは、到底歩いて帰れる距離ではありませんでした。
事務所の所長である松月が弁護人になりますが、なんといっても本人に記憶がないのでは話になりません。
突然、松月が病気で倒れ、深町が本件について調査することになります。
担当検事は、地検のエースといわれる滝川要。
エースといわれながらも、アルマーニに身を包んだ深町とは対照的に風采の上がらないボサボサ頭の検事です。
このあたりのキャラ設定は、見た目が主人公の深町と対照的で面白いものがあります。
しかし、この滝川検事、大変な切れ者で深町も一目置かざるを得ません。
のどかな地域の人情味がうかがえるも、過疎化で経済的に厳しい現実に直面している関係者の人たちの苦悩も見え隠れします。
特に、苦しくとも生活保護申請をしない人が多いことを、日本人の「恥の精神」と登場人物に語らせるところなどは、あまりにも核心を突いた言葉です。
難病で死が迫っている小さな子どもが登場して涙を誘ったりと、田舎の素朴さを前面に押し出しながらもしっかり伏線が引かれており、謎が解けたときは伏線の見事さに感心しました。
最終結果はいささか残念さが残りましたが、犯人像について二転三転するところは一級の推理小説です。
それにしても、弁護士小説や弁護士ドラマを見ていて私がいつも思うことは、こんなことやってたら事務所が潰れてしまうということです。
ただでさえ、弁護士は1ヶ月5万円前後の弁護士会、日弁連の会費を支払わなければなりません。
さらに、事務員の給料や事務所の家賃、その他様々な費用がかかります。
ボランティアや探偵まがいのことばかりやっていると、確実に事務所の維持ができなくなるはずですが、そこを無視しないと小説やドラマにならないということでしょう。
小説での伊勢観光を兼ねて、一級の推理小説が読めるというお得な一冊です。
是非、ご一読をお勧めします。
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