今回は、「理系企業と文系企業」(横田好太郎著 PHP)をご紹介します。


本書は、著者自身が旧カネボウに23年間勤めた後、キャノンで13年間勤め、その企業文化の違いの違いに驚いたことをきっかけとして、いわゆる理系企業と文系企業の違いを呈示しようとして書かれたものです。


理系企業と言えば、著者が勤務していたキャノンをはじめソニー、トヨタ自動車等いわゆるメーカーといわれる企業が多く、文系企業は銀行等金融機関、出版、広告代理店などを挙げることができます。


ここで、著者が、自身の勤めていた旧カネボウを文系企業に分類していることには疑問を感じましたが、化粧品販売会社ということで無理矢理文系企業に入れてしまっている感が否めません。

もともとカネボウは紡績会社であり、どちらかというとメーカーである理系企業に入ると思うのですが・・・。


ちなみに、私は、メーカーに代表される理系企業と出版、広告、金融などに代表される文系企業の間で、いかほどの社風の違いがあるのかに関心があって、本書を衝動買いしてしまいました。


旧カネボウが、慶大卒を頂点とする「士農工商」と身分が別れていたのに対し、キャノンが中途採用も差別せず、純粋に研究に打ち込む従業員が多いという点は理解できました。


もっとも、それ以降は、ソニー、トヨタ自動車、旭化成、新潮社、電通、三菱グループなどの社風や伝統は書かれているものの、明確に「理系企業だからこうだ、文系企業だからこうだ」という区分けはできていません。


むしろ、最近では、文系企業も理系企業も、企業として存続・発展していくためには、企業内での技術者や研究者は別として、理系的人材も文系的人材も必要であるという流れになってきており、本書の当初の目的そのものが崩れつつあるという印象を受けます。


ちなみに、アメリカの学生の人気企業は、グーグル、ディズニー、アップルの御三家が中心であり、日本でもグーグルは人気企業のひとつです。


日本での文系と理系の学生の人気ランキングトップ10は、次のように明確に別れています。


(文系) JTBグループ、全日本空輸、エイチ・アイ・エス、日本航空、電通、博報堂、三菱東京UFJ銀行、オリエンタルランド、東京海上日動火災保険、Plan.Do.See


(理系) カゴメ、トヨタ自動車、味の素、JR東日本、明治グループ、三菱重工業、東芝、旭化成グループ、資生堂、一条工務店


これは日本の大学の学生をざっくり文系と理系に分けてランキングしたものであって、大学のレベルや所在地によって全く異なった結果がでることは間違いありません。


かくいう私自身も、旧長銀と野村投信という大分類的には似たような2つの企業での勤務経験がありますが、社風や文化の大きな違いを感じました。


銀行は、企画や人事などの管理部門が出世コースであるのに対して、証券では営業で稼いだ人間が出世コースに乗るという点だけでなく、なぜか本店が日本橋にある野村證券系列の会社で関西弁がやたらと多かったというようなことです(おそらく、野村は関西系の文化がどこかにあるのでしょう)。

また、当時、私と同時期に丸紅から野村投信に転職してきた人は工学部出身でしたし、野村投信の生え抜き人材には東工大出身者が複数人いました。


このように考えると、理系企業と文系企業を大きく2分類してその特徴を説明するという本書の目的は、少なくとも本書を読む限り成功しているとは思えません。


本書に取り上げられている会社や企業グループなどの社風や伝統を知るには役に立ちますが・・・。


就活生の方で、本書に詳細に書かれている企業の文化や風土を知りたい人にはお勧めの一冊です。



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