今回は、「成毛眞の本当は教えたくない意外な成長企業100」(成毛眞著 朝日新聞出版)をご紹介します。


本書は、マイクロソフト(日本法人)代表取締役を経て、投資コンサルティング会社インスパイアを設立した成毛眞氏が、将来有望な日本企業100社を選んで解説を加えた本です。


これから有望な日本企業はどこかという問いかけに対して、著者は簡潔明瞭に

「時代の変化についていける企業は有望だし、そうでない企業に明日はない」と答えています。


秀逸なのは、著者の世の中の変化(時代の変化)を把握する方法です。


著者は、時代の変化には2種類あると説いています。


1つめは、自然に起こる変化、ゆっくりと起きる変化を指します。

現在、どのような”ゆっくりとした変化”が起きているかというと次のような変化が挙げられます。


人口は減少しつつ、創始高齢化がますます進む。

2013年には人口の4人に1人が高齢者だが、35年には3人に1人、そして60年には2.5人に1人が高齢者になる。

一方で、子どもの数は増えず、2013年で102万人だった出生数は、30年には75万人を下回り、60年には50万人を割り込む。

よって、高齢者1人あたりの現役世代(20~64歳)の比率は、2010年には1対2.6だったものが60年には1対1.2となる。この数字は、昭和25年(1950年)には1対10だった。


このような変化を見てみると、1950年のビジネスを漫然と続けていては、通用するはずがないと説きます。

さらに、高度経済成長時代だった1960年代から70年代の手法も通じず、バブルの時代、その後の失われた10年間、20年間のビジネスモデルも、いつもまでも通用するものではないと説きます。


だから、企業は(この)予測に沿って変わらなければならないし、その一方でごく稀ながら、変わらなかった企業のほうへ時代の側から近寄ってくることもあると結論づけます。


もうひとつ変化は、突然起こる変化を指します。

それはたいていが人為的なもので、代表例は戦争です。

今後10年間で日本が戦争に巻き込まれることはないと思うが、他の人為的イベントとして2020年の東京オリンピックを挙げています。

これから東京の街では確実に変化が起こり、それと同時に地方もまた変化していると説きます。

地方から東京圏への人口の移動は減少しており、地方に残る若者たちは東京をコピーしたような(イオンなどの)ショッピングモールで楽しむようになる。

ところが、実はコピー元である東京にはこのようなショッピングモールは極端に少なくて、地方では東京都全く異なったあり方を出来させていると説きます。


地方から東京への人口移動が減少するという点については、異論があろうかと思います。

現在ベストセラーとなっている「地方消滅」(増田寛也編著 中公文庫)では、将来子どもを産む若年層(「人口再生産力」)が大幅に地方から大都市圏、特に東京に流出する結果、地方の人口減少スピードが急速化していると説いています。


この点について、本書の主張と「地方消滅」の主張が食い違っています。

「地方消滅」の20ページのグラブを見ますと、1960年から73年が「第1人口異動期」、1973年~80年が「第1人口移動均衡期」、1980年~93年が「第2人口異動期」、1993年~95年が「第2人口均衡期、2000年~が「第3人口異動期」となっています。

期間の長い「人口異動期」に地方から大都市圏に人が移動し、その節目の2年程度の「人口均衡期」には人口の移動があまりありません。

そして、2008年ころに「第3人口異動期」がピークとなっており、現在は「第3人口異動期」の終盤でピークの2008年ころと比較すると人口移動は減少しています。

「人口均衡期」つまり人口移動の少ない時期は、高度成長時代が終わった後の2年とバブル景気が終わった後の2年です。

では、2000年以降に何かがあったのかと問われれば、小泉政権下での円安景気と考えることができます。

とすれば、アベノミクスもしくはそれに続く好景気の時期がある程度続けば「第4人口異動期」が起きる可能性があり、地方の人口減少が決定的となるでしょう。

そういうことは起こらず、人口移動が減少するという本書の仮定が現実化すれば地方独自の経済や文化が出来することも十分あり得るでしょう。


東京への若年層人口の流入が将来的に起こるのか、それともこのまま人口移動がなくなってしまうのかは将来予測となりますが、私としては2020年の東京オリンピックに向けて新たな人口流入があると考えます。

そうなれば、地方の人口、特に若年者層が激減し、地方独自の経済、文化もいずれ衰退することになります。


将来的な日本の人口移動について、対極の考えと私見を長々と書いてしまいました。


本書は、本書のスタンスに基づいて成長企業を次のように分類しています。


東京五輪開催に向けて伸びる企業、新たな製造拠点に積極投資する企業、何世代も続いてきた超長寿企業、グローバルニッチトップ企業、地方の”ミニ東京”を形成する企業、著者自身が注目する前途洋々企業の6分類です。


投資はもとより、就職、転職の際にも大変参考になる一冊です。

もっとも、人口移動について(私を含めて)異論があることも考慮の上、盲信することなく極めて示唆に富む一材料として、ご利用いただきたいと考えています。


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地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)/中央公論新社
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本書の「はじめに」と「地方消滅」を比較して読むと、日本の近未来に関する自分なりの考え方ができると思います。