今回は、「ヤンキー経済」(原田曜平著 幻冬舎新書)をご紹介します。
最近のヤンキーたちは、かつての暴走族たちに象徴されるような過激なヤンキーとは全く異なっているそうです。
このような現代のヤンキーを著者は「マイルドヤンキー」と呼んでいます。
彼らの特徴は概ね次のような点にあるとのことです。
東京に憧れたりせず上昇志向もなく「成り上がり」(矢沢永吉著)の世界観をもたない。
地元愛が強く、その「地元」の範囲もたった5キロメートル四方。
衣食等いろいろなものが揃っている地元のイオンが彼らにとっては夢の国。
主に小・中学校時代の同級生同士でつるんでいて、みんなで行動するのが大好き。
よって、車もカッコイイ車よりも大勢で一緒に乗れる車を好む。
パチンコやパチスロはよくやり、勝つと仲間を呼んで飲み食いする。
アニメ鑑賞が好きで、仲間意識の強いEXILE、悲しい過去をもつ安室奈美恵、浜崎あゆみなどに共感を覚える。
スマホ保有率は高いが、オタク系と違って機能をしっかり使い切れない。
約束をやぶったり嘘をついたりするのが悪いことだと感じている。これは、仲間を裏切る行為になるから。
仲間関係を円滑に保つために、しっかり空気を読む。
高級ブランドの鞄や財布は欲しがるのは、いい物を長く使うため。
子どもにはブランド物の服を着せてオシャレをさせ、習い事にも熱心。
ヤンキーがこのように変貌していったのには理由があります。
バブル世代の大人たちを見て育ったヤンキーにとって、大人は反抗の対象たり得ました。
ところが、昨今のヤンキーたちは生まれたときから世間が不景気で、大人たちはリストラを怖れて元気がなくなりくたびれて、全く反抗に値しない存在になってしまったのです。
学校や地元の先輩たちを見ても、一生懸命就活して会社員になっても薄給で不本意な仕事をさせられている。
ちっとも楽しそうじゃない。
ということで、上昇志向を持たず自分たちの育った地元(東京都内、例えば石神井あたりでもその近辺だけが地元で都内は別世界)で、昔の地元の同級生と結婚してみんなで集まって楽しく過ごすのが一番という価値観を持つにいたったのです。
また、ITインフラの発達によって、様々なコンテンツがタダ(もしくはタダに近い価格)で手に入るので、わざわざ都心に出向く必要もありません。
ひとつだけ別格なのはディズニーランドだそうです。
ディズニーランドに対する憧れは、男女を問わずヤンキーたちにもあるのです。
本書の最後では、このようなヤンキーにどのようなアプローチをすれば「消費」に結びつけることができるかについて様々な提案をしています。
高級ブランドがおトクに買えるかわいいアプリ、子供服、ハロウィンのような手軽な非日常、仲間とくつろげる場所・・・等々、彼らの価値観に適合したようなモノやサービスを提案していますが、私個人としてはどれもこれもあまりしっくりきません。
彼らの”夢の国”であるイオンモールを運営するイオンが大幅減益になったように、基本的に彼らは多くの消費をしない傾向があるからです。
(もちろん、都心に拠点を置いて飲食やカフェ、はたまたアイドル観劇にお金を使う若者たちよりは別の意味での消費者たり得ます)
彼らの価値観は、気心の知れたみんなで集まって安価な消費を楽しむことにあり、究極の価値は「安定」です。
どうしても彼らに消費をさせたいのであれば、別格であるディズニーランドを参考にしたほうがいいと感じるのは私だけではないでしょう。
現代のヤンキーの行動様式から若者たち全般の動向を調査しようという趣旨(に思える)意欲的な力作で、時代の流れを知る意味でも一読の価値があります。
さらに若者論を考える上では必読書と言っても過言ではありません。
もっとも、若者の消費を喚起するという意味では、本書に書かれたアイディアではまだまだ足りないような気がします。
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