今回は、「マイクロファイナンス」(菅正広著 中公新書)をご紹介します。
マイクロファイナンスの代表例としては、バングラデシュの貧困女性たちに事業資金を融資して貧困からの脱出を助けたグラミン銀行が有名です。
格差が拡大し、6人に1人は貧困に陥ってしまったわが国での、マイクロファイナンスの利用可能性を考察するのが本書です。
本書は、絶対的貧困者に対して成功したマイクロファイナンスが、はたして日本のような先進国で活用できるのかという疑問に答えていきます。
マイクロファイナンスというのは、グラミン銀行の場合、生活資金を得ようというモチベーションの高い女性層に無担保で融資し、借り手の事業活動にアドバイスをしながら信頼関係を構築しつつ返済を受けるというもので、貸し倒れ率2%程度という驚異的な成果を上げているというものです。
金利はいささか高いものの、その理由は日本の消費者金融とは全く異なります。
マイクロファイナンスの場合、借り手との信頼関係を築きこまめにサポートする必要があることから自ずから金利が高くなりますが、消費者金融の場合は全体としてみた貸し倒れを補填する意味で金利が高く設定されています。
つまり、マイクロファイナンスは、借り手との信頼関係を築き、こまめに見てアドバイスを与えながら再起を促していくという社会貢献の理念が第一なのです。
この制度は、アメリカやヨーロッパ諸国でも利用されており、かなりの成果を上げています。
わが国でも、岩手県消費者生活協同組合が独自のマイクロファイナンス制度をつくっており、貸し倒れ率が何と0.3%という実績を上げています。
もちろん、貧困者の中には高齢者や疾病等が理由で働けない人たちがいますが、そのような人たちには生活保護を、再起可能な人たちにはマイクロファイナンスをという区分けをすれば、生活保護財政の逼迫も防げます。
これからは、このように社会貢献を積極的に行い、相応の報酬も得られるソーシャルビジネスを日本でも積極的に立ち上げていく必要があるでしょう。
人間の幸福は獲得した金銭だけでは測れません。
社会のために役に立っている、人の為に役に立っているという実感を得ることこそ、幸福につながるのではないでしょうか。
私は、本書を読んで、大きな感動と共感を受けました。
日本の相対的貧困率は上昇するばかりで、餓死者もかなりの数に登ります。
生活保護一辺倒では、いずれ財政破綻が生じてしまいますし、保護者は経済的に立ち直ることができません。
貧困者の人間としてのプライドを重視しつつ、適切なアドバイスなどを通して人間関係を構築し、生産活動の担い手としていく方向性は今の日本に必要不可欠なものでありましょう。
著者は、さらに大きな視野に立って、ソーシャルビジネススクール構想を打ち立てていますが、その科目を見てみると、元銀行員で弁護士の私の経験知が大いに役立つ気がして嬉しくなってきました。
各国のマイクロファイナンスの制度などは飛ばし飛ばし読んでいっても、著者の情熱や趣旨は十分に伝わってくる良書です。
すべての人に、是非ご一読をお勧めします。
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