今回は「未来思考」(神永正博著 朝日新聞出版)をご紹介します。


2010年2月発行といういささか古い本ですが、副題に、10年先を読む「統計力」とあり、ちょうど今がその中間の5年後間近ということで、検証の意味を含めて読み直してみました。


さて、10年後を統計力で読むことを試みた本書は、折り返し地点でどのように評価されるでしょうか?


本書は、大きく3つのパートに分けられています。


1 少子化と結婚

2 都市と高齢化

3 仕事と経済


の3分野について「統計力」を駆使して分析しています。


少子化と結婚については、5年前から言われていたことなので、特段新しいことは書かれていません。

逆に、奇抜なことも書かれていません。


目をひくのは、少子化の原因として「教育費の増加」と「社会不安の増加」を挙げています。

特に、後者は、ベルリンの壁崩壊前後で旧東ドイツの合計特殊出生率が低下したことなどを根拠にしています。


結婚については、男女の交際期間がどんどん長くなっている点を指摘しています(長すぎる春)。

ここから、付き合っていて結婚したくてもできない人たちが増えたと推測しています。

近年、結婚しない理由として挙げられる「出会う機会がない」という”より深刻な状況”は、5年前はあまり注目されなかったのでしょうか?

もちろん、現在でも「金銭的理由」等で結婚できないというケースはとても多いですが、交際相手がいるだけマシとも言えるでしょう。


男性の年収と結婚している割合との関には、身もふたもない関係があると書かれているように、男性の収入が高いほど結婚している人が多いのが本書時点での統計です。

おそらく、現在も同じ統計にはなると思います。

ただし、現在及び将来においては、女性の収入も大きな要素になると、私は予想しています。


教育について、ヘックマンやコールマンの衝撃的なレポートが紹介されています(現在についてはまだ調べておりませんので妥当かどうかはわかりません)。

ひと言で言ってしまえば、「就学前の教育の影響がとても大きい」というものです。つまり、5歳くらいまでの家庭教育がその子の知的レベルに大きな影響を及ぼすとのことです。

本書を基準とした34年間(つまり現在から38年)での消費者物価の上昇が1、83倍であるのに対して、大学の学費が私立で4,64倍、国立で14,88倍になっており、大学の学費が高すぎるという指摘があります。

最近、有名私立の医学部で若干の学費低下が宣伝されていますし、18歳人口の減少で大学数が減っていますが、学費が大幅に下がったということはないでしょう。


都市と高齢化については、現在の分析とほぼ同じです。


東京に人口が集中し、地方(特に過疎地)は高齢者が多くなるという昨今のベストセラー「地方消滅」が採用したデータと同じ内容です。

東京の人口のピークは2020年と予想しています。


仕事と経済についても、現在の分析とほぼ同じです。


非正規雇用の増加は現在でも問題視されていますし、将来の問題でもあります。

格差拡大の原因でもあります。


ウケようとして「非正規社員は正規社員よりリスクが高い分賃金をあげるべきだ」という、もっともらしくもバカバカしい理論が書かれています。

賃金が低い仕事にしか就けなかった(もしくはスキルがなかった)からリスクが高い仕事にいかざるを得なかったと考えるのが、正しい論理でありましょう。


労働市場では、機械に代替されるような定型の仕事の賃金が低くなり、代替できない非定型の仕事の賃金が高くなるというのも、5年前”以前”からの常識的考えでした。


このように、統計を観察すると、今の状況は5年前からほぼ予想されていた通りになっています。

制度や社会構造が大幅に変わらない以上、ズルズルと同じベクトルで進んでいくことはこれからも同じでありましょう。


従来から言い古されたことですが、(機械はもちろんのこと)他人や他社では代替できない仕事を見つける、創設することこそが、将来的な大きな経済基盤に結びつくのでしょうね。


ま、言うは易し行うのは難しですが・・・。



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