あなたには、こんな経験はありませんか?
会社でも学校でも、入ってきたばかりの後輩を一生懸命面倒を見てあげて、自分の時間を割いてでも尋ねられたことに丁寧に対応してあげた。
にもかかわらず、1、2年経って、その後輩が一人前(場合によっては半人前)になって自分でバリバリできるようになると、昔の恩をすっかり忘れてしまったようになるようなってしまった。
というような経験が・・・。
だからといって、
人間って基本的に恩知らずなんだ~!
と考えるのは早計です。
人間は「恩返し」をしたい生き物なのです。
まあ、借りは返したいというのが人情というか人間の心理一般なのです。
これを「返報性の原則」と呼ぶのは、多くの方々がご存知のとおりですよね。
また、相手にプラスをもたらさなくても、自分の頼みを断ったという「負い目」を穴埋めしなければならないという気持ちも「返報性の原則」の一種なのです。
「申し訳ないけど1万円貸してくれない?」
「1万円はちょっと・・・」
「じゃあ、半分の5000円でいいから」
「・・・わかったよ。じゃあ5000円ね」
というやりとりも、1万円貸して欲しいという頼みを断ったという「相手の負い目」を、あたかも恩を売ったように利用して「返報性の原則」を使った例です。
ところが、この「返報性の原則」には大きな欠点があるのです。
人間は、「受けた恩」を「与えた恩」よりも、はるかに早く忘れてしまうのです。
私は、特に親しい男性の友人数人の誕生日に、毎年些細ではありますが「誕生日プレゼント」を送っています。
しかし、今まで一度も、私の誕生日に彼らからプレゼントをもらったことはありません。
決して根に持って怒っているわけではありません。
「あなたとの友情を大切にしたい」という証として、私は誕生日プレゼントを贈っているのですから。
彼らは彼らで、それ以外の方法で「友情」を示してくれていますからお互いさまといえばお互いさまなのです。
つまり、やり方が違うだけの話だと割り切っています。
それと、「受けた恩」は早々と忘れてしまうのが人間の性(さが)だということも理解してますので、まったく気になりません。
このように、人間は「借り」をすぐに忘れてしまうのです。
貸した本が返ってこないのも、これと同じです。
ですから、もし戦略的に「返報性の原則」を利用して交渉や説得を行うのであれば、「貸し」をつくったらできるだけ間をあけずに当方の要求を持ち出しましょう。
上記の「断った負い目」なんて1日も経たずに忘れてしまいますので、すぐにカウンターパンチを繰り出さなければ意味がありません。
アメリカの心理学者の中には、職場などで手伝ってあげたような「恩」があるときは、相手に頼みごとをするときに「手伝ってあげた時のこと」をさりげなく思い出させるように仕向けるべきだと主張する人がいます。
しかし、私は、拙著「話し上手はいらない」で書きましたように、この考えには反対です。
極めて巧妙に相手の記憶だけを喚起させるのはとても難しく、多くの場合「なんて恩着せがましい人なんだろう」と誤解されるのが関の山でしょうから。
ですから、「貸し」は忘れられやすいものだと割り切って、「相手の役に立てて、喜んでもらっただけでも手伝ったかいがあった」と考えましょう。
そして、余裕のあるときはどんどん「恩」を売りまくりましょう。
私のように、受けた恩を忘れない義理難い人間も、たまにはいますから(笑)。
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ひとえに、読者のみなさまのおかげであると深く感謝いたしております。
今後とも、何卒よろしくお願い申し上げますm(_ _)m