今回は「勁草の人」(高杉良著 文藝春秋)をご紹介します。
本書は、元日本興業銀行特別顧問だった故中山素平氏の生き様について、小説風に書かれたものです。
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中山素平は「そっぺい」と呼ばれ、田中角栄元総理、旧通産省幹部、財界トップたちとの交流が深く、彼を慕う人物たちから何かと相談を受けたり、調整役を頼まれたりした人物でした。
国鉄分離民営化では、田中角栄が分離に反対するのを説得して、民営化と共に分離を成功裡に導きました。
東京ディズニーランド建設にあたっては、融資を渋る三井銀行や三井信託銀行のトップを説得するなどして協調融資をまとめ上げる立役者に。
中国進出にも積極的に関与しました。
日本にビジネススクールを作るべく財界人を行脚して寄付を集め、新潟に国際大学を設立しました。
尾上縫事件では、銀行内部の処分者の中から、当時頭取だった黒澤洋を残すための根回しをして、銀行の信頼回復に尽力しつつも、興銀の力の衰退は防ぐことはできず、相談役制度廃止に伴って特別顧問を辞任しました。
産業金融の雄としての自覚を持ち、国益最優先で仕事をしていた日本財界人の歴史に残る大人物です。
もっとも、長期信用銀行の役割が時代と共に失われていき、みずほ統合まで見守ることに・・・興銀の最後を見届けるまで現役で生き続け、時代の変化に悲哀を感じることもありました。
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国策銀行だった日本興業銀行の事実上のトップとして君臨し、政財界や官界に多大なる影響力を持った中山素平氏の功績を記した小説です。
経済小説の第一人者である高杉良氏の最新作ですが、どうも主人公である中山氏サイドからの見方がほとんどで、一言で言ってしまえば「中山素平はかくも立派だった」という一面的な内容でした。
戦後の有名な政財界人たちや旧通産省の事務次官らも実名で登場し、東京ディズニーランド建設に対して反対論が多かった点など、当時の時代背景を知るにはいい本ですが、中山素平という人物への突っ込みが不足しているような印象を受けました。
私的な余談ですが、黒澤元頭取の葬儀に献花した一人として、私の大学時代の同級生の名前が本名で出ていたのには苦笑すると同時に、自分たちの年齢を思い知らされました。
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