今回は、「バカが多いのには理由がある」(橘玲著 集英社)をご紹介します。


本書は、著者が「週間プレイボーイ」に連載した「そ、そーだったのか!?真実のニッポン」を再構成して、プロローグとエピローグを加えて一冊にしたものです。


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日米中3ヶ国の高校生3400人を対象に行われた調査では、「私は他人に劣らず価値のある人間である」という質問に肯定的に答えた高校生はアメリカで89%、中国で96%だったのに対し、日本ではわずか38%でした。

これは、日本人が個人ではなく関係性に依存する傾向が顕著だということです。

「自分はたいしたことはないけど、俺たち、会社、日本は一流だ」という意識につながっているのです。


戦国時代の日本の陸戦力は、長篠の合戦で織田信長が1万の鉄砲隊を持っていたことを斟酌すると、16世紀のヨーロッパを圧倒する最強のものでした。

長篠の合戦から12年後、フランスでアンリ4世が歴史的勝利を収めたときの鉄砲隊の人数はわずか300人でしたから。

ところが、徳川幕府は鎖国と同時に鉄砲の製造を事実上禁止してしまいます。

これは、冷戦時代の欧米の研究者に注目されました。

日本が鉄砲を放棄できたのだから、米ソも核兵器を放棄できるかも知れないと考えたのです。


内戦が激化しているシリアの隣国レバノンの首都ベイルートは、パリの街角のようなカフェでブランドものを身に付けた男女がワイングラスを片手に談笑しています。

レバノンの運命は大国に握られていて、自分たちは何をやってもムダだとわかっているので、毎日を楽しく暮らした方がいいと思っているのです。


オランダの首都アムステルダムの一流ホテルに置いてある観光客向けのガイドブックには、「売春の仕方」や「マリファナの買い方」が載っています。

マリファナはアメリカのワシントン州やコロラド州でも嗜好品として合法化されています。

売春の合法化は婦人の人権団体からも支持されています。

禁止すると、売春婦の労働環境が劣悪になり、また衛生管理が杜撰なものになってエイズの蔓延する恐れがあるからです。


日本のサービス残業は、対価を払わずに人を働かせる奴隷労働です。

この悪習は日本全体に広まっているので、日本では大企業ばかりか官庁までも”ブラック企業”となってしまいます。

居酒屋の正社員としてサービス残業をするより、アルバイトとして時給で働いた方が、たくさんの賃金がもらえてしまうのです。


オランダは、労働者の生産性が非常に高くて、日本人労働者はその7割程度の価値しか生み出していません。

出産、育児休暇や介護休暇の制度が大幅に拡充されている上、どれだけの時間を働くかを決めるのも労働者の権利ですから、1日1時間しか働かなくとも正社員なのです。

失業しても、失業保険を受けながら労働訓練をしてもらえます。

その代わり、18歳以上65歳未満の失業保険受給者は、原則として全員に労働義務が課せられます。


日本、中国、韓国など東アジア諸国には、うつ病患者が多く自殺率が高いのですが、それは社会的な原因ではなく遺伝的な原因だという研究が出てきました。

日本人は、このように黙っていてもうつ病になる恐れが高いので、羽目を外すくらい楽天的になった方がちょうどいいのかもしれません。


スポーツはもちろん、音楽や数学、一般知能の8割が遺伝で決まります。

知識社会においては、知能が高い人の方が所得が多くなりますから、金持ちの家に生まれた子どもがいい学校に行くというのは、遺伝学的にはあたりまえのことなのです。


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本書を読むと、私たちがいかに洗脳されているか、真面目な人間ほどバカを見るということがイヤと言うほど書かれています。

シニカルに日本社会や日本人を評しています。


本書の内容にもあるように、日本や東アジア諸国の人間が遺伝的に不安神経症的傾向が強いのであればこそ、このような本が売れるのだろうなあ~と、皮肉を言いたくなる気持ちにもなります。

実際、日本では、日本国破産云々という将来不安を煽る本が本当によく売れますね~。


もっとも、長期間の連載で書き上げたものをまとめただけあって、緻密な取材や現地視察によって、私たちが普通知り得ない事実や詳しい専門知識を調べた結果がふんだんに盛り込まれており、極めてお徳度の高い一冊だと思います。


貴重な情報盛りだくさんの一冊。

すべての人にお勧めできます。


バカが多いのには理由がある/集英社
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