今回は、「行動が感情や思考を変える」という点についてご説明します。


著名な心理学者ウィリアム・ジェームズの学説です。


例えば「にっこり笑うと幸せな気持ちになる」「眉を寄せれば悲しい気持ちになる」というように、行動が感情を変えることは、一般的によく知られています。


試しに、にっこり笑ってみて下さい。


ほら、少しは楽しい気持ちになれだでしょう。


実は、行動は感情だけでなく「思考」も変えてしまうのです。


たとえば、あなたが遊びに行きたくなり、ボーフレンドに誘われて芝居を見に行ったとしましょう。

あなたは、芝居を見ている自分の行動を見て、

「おや、私はいま芝居を見ている。ひょっとしたら私は、映画より芝居のほうが好きなのかもしれない」

と考え、芝居に対して前向きな印象を持つようになります。

それまで芝居に興味がなく、映画ばかりを見ていたとしてもです。


人間は、誰もが自分の下した決断を正当化しようとする傾向があります。


先の例で考えれば、

「ボーイフレンドに誘われた」→「芝居を見に行く決断をした」→「芝居を見ている」→「自分の芝居を見るという決断は間違っていなかった」→「今までわからなかっけど自分は芝居が好きなのだ」

という流れです。


もっと卑近な例を挙げてみましょう。


あなたが、そうですね~、スマホを買うときに迷いに迷って、iPhoneではなくギャラクシーの機種を選んだとしましょう。


早速友達に見せたところ、

「どうしてiPhoneを買わなかったの?絶対、iPhoneの方が便利だのに」

と言われました。

さて、あなたはどう反応するでしょうか?

「本当に間違ってしまった。あの時はどうかしたいたんだ!」

と答える人はごくごく希で、

「そんなことないよ。世界的にはギャラクシーの方がシェアは高いし、グーグルの成長性を考えればこれからはギャラクシーが日本でもポピュラーになるはずだよ」

と答える人がほとんどでしょう。


選ぶときに、迷いに迷ったとしても、いったん購入してしまうと購入した物のほうが断然いいはずだ、自分の判断は正しかったと強く思い込むのが人間というものなのです。

そして、自分の判断が正しかったことを証明するための材料をたくさん仕入れて安心します。

自分の判断に異論を唱える友人・知人がいれば、(仕入れた有利な材料で)反論します。


ベストセラーになった「脳内麻薬」(中野信子著 幻冬舎)にも、次のような興味深い記述があります。

「愛情があるからセックスしたくなるのか、セックスすると愛情が形成されるのかという問題は時々話題になります。実は動物の浮気の研究から、この答えの一部はおそらく後者、つまり「セックスによって愛情が深まる」ということがわかってきました」(同書P150)。


本書にはその根拠が書いてありませんが、先述した「行動→感情」という方向性は同じです。

ただ、セックスをするとドーパミンが分泌されて脳に快楽状態をもたらすという本書の趣旨を斟酌すると、通常の「行動→感情」よりも強力な結びつきをつくるものと推測されます。


念のため付記しておきますが、強引に性的関係を結んだりしても決して愛情が形成されるものではありません。

犯罪者として処罰され、社会的制裁を受けてしまいますので、くれぐれもご用心を。

あくまで、相手に(雰囲気等で多少弱くなっていたとしても)判断力があることが前提です。


これを、先ほどの「自分の判断を正当化する」という観点から分析すると、

「自分は、彼(彼女)とセックスしてした」→「ドーパミンが分泌され快楽状態がもたらされた」→「彼(彼女)とセックスし快楽状態がもたらされたのだから自分の判断は間違っていない」→「なぜなら自分は彼(彼女)を愛しているから」

という流れになります。


さて、以上のような理屈をどのようにして「説得」に応用すればいいのでしょう?


将来にわたって継続的に受注が期待できる相手が、自社製品と他社製品のどちらにしようか迷っているような場合は、破格の条件を提示してでも(たとえ損失が出たとしても)、ともかく一度自社製品を選んでもらいましょう。


すると、相手は、自分があなたの会社の製品を購入したという判断を正当化しようとします。

「どうして、あの会社の製品を選んだんだ?」

と同僚に尋ねられれば、当の相手は熱心にあなたの会社の製品のメリットを説明してくれるでしょう。

そうやって、自分の判断の正当性を何度も口にしていると、自分の言うことと一貫した行動を取らなければならないと思い、ますますあなたの会社の製品を買い続けてくれるはずです。


まず自分にとって好ましい行動を相手にとらせる。


これが今回のキーワードであります!