今回は、敢えて「欠点」を明示して相手を説得する方法についてご説明します。


世の中、完全なものなどありません。

物であっても人間であっても、なにがしかの欠点はあるものです。


例を挙げると、昔のソースのCMで次のようなものがありました。


「○○ソース。ちょっと高いが、い~い味です」


このCMはずいぶん昔にテレビで放映されたものですが、私はこのCMを見たとき、是非ともこのソースが欲しくなった経験があります。


値段が高いというのは確かに「欠点」です。

しかし、たかだかソースの値段の違いなんてたいしたことではありません。

それよりも、美味しく料理を食べる満足感の方がずっとメリットがあるとわかったのです。


なぜ敢えて「欠点」を示した方が説得力が高まるのでしょう?


それは、「欠点」を自主的に示した方が相手にとって、正直で誠実だと信頼されるからです(事実、多くの場合そうなのでしょう)。


アメリカのある調査によると、転職者の採用において、履歴書に長所ばかりを並べ立てる応募者よりも、最初に短所や若干の不得意を明らかにしてから長所に触れる人の方が、次の段階、つまり面接に呼ばれる確率が高くなるということが判明しています。


あなたは中古車を買った経験がありますか?


私が旧長銀の若手行員で独身寮に入っていたとき、私も含め車の所有者全員が中古車を買っていました。

新車を買うほどの金銭的余裕がなかっただけです。


ご存じかも知れませんが、中古車には「当たり、外れ」があります。

ですから、寮の友人が中古車を買いに行くときには、何人かが付いていき、あれこれ調べたものでした。

そうは言ってもしょせんは素人ばかり。

複数の人間の目がチェックしているぞ、というプレッシャーを販売員に与える効果がせいぜいでした(それでも、1人で行くよりはずっとマシなのですが・・・)。


販売員さんが、

「この車は、トランクの開け閉めに少し力がいるのですが、後は私が見たところ悪くない車です。走行距離もまだ短い方ですし・・・」

と言いました。

私たちは、代わる代わるトランクを開け閉めして

「まあ、非力な嫁さんでももらったときには買い換えなきゃならんだろうが、お前の場合はまだまだ大丈夫だろう」

ということで安心し、彼もその車を買うことに決めました。


もし、販売員さんが、最初にトランクの欠点を正直に言わなければ、私たちは新車でも見るような目であちこち”あら”を探しては指摘し、彼は結局この車を買わなかったかも知れません。


このように、最初に「欠点」を呈示することによって、その後の説得性に信頼感を持たせるというのは極めて効果的な方法です。


ただし、最初に呈示する「欠点」は、その後のメリットと関連したものである必要があります。


たとえば、機械などの購入費用で他社商品と競合しているような場合は、費用面での「欠点」を呈示し、費用面でそれを上回るメリットを話すべきです。


「わが社の製品は、他社のものより1割くらい割高ですが、この機能が付いているためにはるかに長持ちしてメインテナンス費用がかかりません。メインテナンス費用を考えれば、2年で元が取れますし、5年使えばはるかに割安になります」

という具合に、費用面でのメリットを説明しましょう。


「わが社の製品は、他社のものより1割くらい割高ですが、コンパクトで場所を取りません」

と説明しても、十分なスペースを持っている相手には意味がありません。

スペースが狭くてコンパクトな製品を求めているのなら、最初から安くて大きな他社商品は選択肢から外されているはずですから。


昔、プロテニスプレーヤーのマイケル・チャンが、イワン・レンドルに負けた試合の記者会見で、

「彼は僕よりテニスは上手いだろう。しかし、料理なら僕の方が上手いよ」

というジョークで記者たちを笑わせました。

このジョークは、マイケル・チャンがイワン・レンドルにはどうしても勝てないということを自嘲気味に話たものなのです(実際、当時、このカードではほとんどレンドルが勝っていました)。


もし、あなたが独身女性で彼にさりげなくアピールするとしたら、次のような表現が効果的でしょう。


「私は最新家電の扱いは苦手だけど、料理の腕ならたいていの人には負けない自信があるわ」


「私は車の運転は苦手だけど、車の中だけじゃなく家の中だっていつもピカピカにしておく自信はあるわ」


これらは、私生活という点で関連しています。


「私は料理は苦手だけど、会社の男性上司に好かれる自信はあるわ」


なんてことは、間違っても口にしない方が無難でありましょう・・・(^^;)