今回は、まず、アメリカの心理学の実験からご紹介しましょう。


リチャード・E・ベティ教授は、大学生たちをいくつかのグループに分けて「授業料を値上げすべきだ」という説得をこころみました。


1のグループの学生たちは、心地よいクッションに寝そべらせて聴かせ、

2のグループの学生たちは、堅いソファに寝そべらせて聴かせ、

3のグループの学生たちは、椅子に座らせて聴かせ、

4のグループの学生たちは、立ったまま聴かされ、

ました。


もうおわかりでしょう。

説得効果は1が最大で順次下がっていき、4は最低でした。



別の実験は、カニンガム教授が大学キャンパス内で、「アンケートをお願いします」という面倒な頼み事をするフィールド実験を行いました。


その結果、季節にかかわらず「晴れ」の日が承諾率が高くなることがわかりました。


この2つの実験からわかることは、リラックスした状態で、晴れた日の方が説得に対する承諾率が高いということです。

ここから、説得を試みる場合には、相手にとって好ましい環境下で行った方が承諾率が高くなるということが一般的に認識されるようになりました。


実は、「晴れの日」効果については、私自身、家電量販店で聴き取りをやったことがあります。

長雨の続く梅雨時の平日に、暇そうにしている店員さんたちに声をかけ、

「どうですか?最近の売り上げは?」

と尋ねて回りました。

「新製品が入ってきた割には売れませんね~。景気が悪いのでしょうかねえ」

というような答えが返ってきました。

私は、「梅雨が明けて晴れの日が続けば売れるようになりますよ」と言い残してその場を去りました。


天候は、店の売り上げや、場合によっては株価にまで影響を与えるそうなのです。

晴れた日には、わたしたち人間は、ただそれだけでウキウキした気分になり、「え~い、買っちゃえ」という判断をする傾向が高いそうです。

ちなみに、どんよりとした天候の本日(東京ですが)は、今のところ株価は前日比マイナスで始まってます。


若干横道に逸れましたが、このように、相手の承諾を是非とも得たいケースでは、相手にとってできるだけ好ましい環境を作った方が承諾率はアップします。


あなたが女性であれば、

美しい海に沈んでいく夕日が見えるゆったりとしたレストランでシャンパーニュを少し飲んでいい気分になった時に、彼からプロポーズされるのと、

雨の日に店内まで蒸し蒸ししたドトールでプロポーズされるのと、

比較してみてどのように感じますか?


人生において、プロポーズというのは極めて重大な説得であり、それを承諾するか否かも極めて重大な選択です。


彼と結婚したいという気持ちが固まっていれば、「どちらでもOK」という回答もあるでしょう。


しかし、こういうことって後々効いてくるボクシングのボディブローのようなものなのです。


私は職業柄、離婚訴訟を引き受けてきました。

そして、たくさんの女性から、聴き取りをしながらパソコンで「陳述書」を作成してきました。

(離婚訴訟では、裁判所はかならずと行っていいほど双方の陳述書の提出を求めます)


女性の陳述書を書いていると、結婚前から始まることがとても多いのです。

たとえば、先ほどのプロポーズの悪い例だと、


「夫からプロポーズを受けたのは付き合いだしてから半年くらい経ってからでした。蒸し暑くて狭いコーヒーショップでプロポーズされたときは、なんという無神経な人だと思いましたが、キザなことが嫌いな人なんだろうなあと自分を納得させました。しかし、彼の無神経ぶりは新婚旅行に行ったときに嫌というほど思い知らされることになったのです。・・・」


というような出だしで始まることがよくあるのです。

結婚30年目の夫婦であっても・・・。


ちなみに、かのリッツカールトンホテルでは、

「今日の夕暮れ、ホテルのプライベートビーチで彼女にプロポーズしたいので、椅子を用意しておいてくれないか?」

と頼んだところ、素晴らしい椅子とテーブル、テーブルの上にはシャンパーニュ、彼女に跪くための絨毯まで用意してくれたそうです(昔読んだ本ですので、若干の記憶違いがあるかもしれませんが・・・)。


このように、大事な説得をするときには十分な配慮が必要なのです。


オフィスに堅い椅子とテーブルしかなければ、ゆったりとしたホテルのコーヒーショップなどを利用する方がいいでしょう。


まあ、本来であれば、応接スペースくらいはオフィス設計の段階で作っていくべきでしょう。

私自身、接客スペースは落ち着いた色の大きなテーブルを置き(ローテーブルですと前屈みにならなければならないことが多いので)、快適に座れる肘掛け椅子、窓外を眺められる位置に来客が座れるように工夫し、癒やし系のBGMを流していました。

ちなみに、北向きの部屋を選びました。

家賃が南向きより安いという理由ではありません。

南向きだと夏場は多くの時間ブラインドをしておかなければなりませんが、北向きなら日に照らされた窓外の風景が美しく見えるからです。

椅子やテーブルは見た目に比べて驚くほど安いですし、BGMを流すオシャレなコンポもとても安いです。

つまり、ローコストでいい雰囲気の応接スペースを作ることは十分可能なのです。


最後に「晴れの日」効果について若干書いておきます。


企業間同士の取引では、日時が決まっていることもあり残念な天候になってしまうことはやむをえません。


しかし、外回り営業の場合はひと工夫することができます。


晴れた日は、絶好の新規開拓日和です。

気分のいい日に初めて現れたあなたに対し、相手は好意的な第一印象を持つことでしょう(あくまで相対的ですが・・・)。


雨の日は、馴染み客、とくに遠方の顧客のところへ行きましょう。

「こんな雨の日にわざわざ遠くから来てくれて・・・」と思っていただければラッキーですし、近場をうろうろしていると服や靴が濡れてしまいお客様のオフィスを汚してしまうおそれがあります。


以上のように、説得が効を奏するか、はたまた後刻までいい印象を持ってもらえるかについて、説得時の環境の与える影響は思っている以上に大きいということをご理解いただきたいと思います。