本日は、「夢を売る男」(百田尚樹著 太田出版)をご紹介します。
丸栄社という出版社の役員であり敏腕編集者でもある牛河原勘治が本書の主人公です。
牛河原は、本の出版を夢見る人たちに言葉巧みにアプローチし、本の出版を実現させます。
輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズを夢見るフリーター、ママ友たちを見返してやりたい主婦・・・たち、本の出版を夢見る人々の夢を叶えていきます。
もっとも、その方法にはそれなりのからくりがあるのですが、牛河原の口癖は、
「知っているか?現代では、夢を見るには金がいるんだ」
というもので、彼らの夢を実現させているものと割り切っています。
実際、本書に出てくる”夢を実現したい人々”は、性格的に自意識過剰な面があるなど、彼らの言動を見事に描いた部分は、現代の日本人特有の一側面ともいえるでしょう。
そこに、丸栄社よりも業績を上げているライバル社が突如として現れ、牛河原が社長の命を受けて調査に乗り出します。
本書は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの百田尚樹氏の著作で、出版業界の暗部(というか暗部に存在する出版業界)と、人間のいびつな欲望を見事なまでに描いた作品です。
登場人物もほどよく配置されており、文章が平易で巧みなことからスラスラと楽しく読めます。
放送作家の百田氏が書いただけあって、まさにドラマを見ているようなリアリティが伝わってきます。
私自身、運良く自著を商業出版していただき、かつてブログで書いていた「小説離婚裁判」の書籍化を某出版社に依頼されるという宝くじにでも当たったようなことがあったため、わが身に照らしながら本書を読むことができました。
主人公の牛河原の経歴や最後の場面で見せるプロ意識など、参考になることがとても多い小説でした。
読んで損のない小説であることは間違いなく、多くの方にお勧めしたい一冊です。
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