本日は、ストーリーテリングについてご説明します。
数年前から、アメリカでは、プレゼンテーションを行うにあたって、パワーポイントを捨て、ストーリーを用いてプレゼンテーションを行うようになってきました。
ストーリーテリングを学ぶために、著名なシナリオラーターであるロバート・マッキーの話に耳を傾けるビジネスパーソンが急激に増えています。
その結果、ロバート・マッキーは、映画界よりもビジネス界で引っ張りだこになり、大企業の多くは彼を講師に招いてストーリーテリングの講習を行うようになりました。
私自身も、以前、SBI大学院大学で交渉術基礎を教えていたとき、マッキ―の書いた「STORY」をテキストにして1時間ストーリーテリングについて講義をしました。
ここでは、マッキ―の考えるストーリーテリングについて若干のご説明をしていくことにします。
人を説得するには2つの方法があります。
ひとつは、弁論術を用いたもので、従来のビジネス界では常識となっていたパワーポイントを用いたプレゼンテーションの方法です。
数値や事実を積み重ね、相手の意見を取り入れながら行う”知的なプロセス”です。
しかし、この方法には2つの問題があります。
第1に、相手も自分自身の見識やデータ、経験を持っているので、説得しようとしている間にも、相手は頭の中で自分の見識等に従って反論してます。
第2に、仮に説得に成功したとしても、それは理性レベルにすぎず、不十分です。なぜなら、人は理性だけで行動するとは限らないからです。
人を説得するもうひとつの、そして最終的にはるかに強力な方法は、ある考えをひとつの感情に結びつけることです。その最良の方法は、人の心に訴えるストーリーを語ることです。
ストーリーは大量の情報を伝えるばかりでなく、相手の感情と活力をかき立てるものなのです。
そうは言っても、効果的なストーリーを語るのは容易なことではありません。
多くの経営者は、バラ色の未来、たとえば、将来的な自社の売り上げの伸びや企業規模が拡大していくという明るい姿ばかりを語りたがります。
同じように、説得者は、自己の主張が実現したときの明るい未来ばかりを語ろうとしがちです。
しかし、このようなストーリーは、相手にとっては到底真実とは思えないものなのです。
バラ色の未来ばかりが語られれば、きっとあなたはその弱点探しをすることでしょう。
私だったら、間違いなくそうしてしまいます。
順風満帆なバラ色の未来ばかりということは経験則上ありえないと、直感的に気づいてしまうからです。
そこで、優れたストーリーには、必ず暗部というか負の側面が示されています。
人は、何が起こるかわからない将来のことを考えるとき、不安を抱き、恐れを感じるものなのです。
ストーリーの聴き手は、暗部を認め、逆境に真摯に立ち向かう説得者の真実味を評価するのです。
暗部や逆境を覆い隠したバラ色のストーリーの中にはない”真実味”を感じることによって、はじめて説得者と意識を共有することができるのです。
そして、その暗部や負の側面と対峙して、最終的な勝利を収めるストーリーに感動し、心動かされるのです。
たとえば、
「今、不景気や競争の激化という極めて厳しい中で、私たちは会社の舵取りをしていかなければなりません。これを乗り切るには奇跡のような幸運が必要ですが、私は・・・をするのがよいと思います」
というふうに明言すれば、人は耳を傾けてくれるでしょう。
要するに、説得者は、自らの主張内容がもたらす明るい未来ばかりを語るのではなく、それに内在、もしくは外在する負の側面を示しつつ、それをどうやって乗り切るか、ということを伝えるストーリーを語らなければならないのです。
以上が、マッキ―のストーリーテリングの骨子です。
以下は、私なりに考えた若干の付記事項です。
わが国の経営者は、アメリカの経営者と正反対に、バラ色の未来を語るのではなく、極めて悲観的な未来や悲観的な外部環境を語ることが好きなように思えてなりません。
入社式での経営者の訓話でも、
「これから益々グローバルな競争が激化していく環境下では・・・当社の運命は君たち新入社員のがんばりにかかっている」
というものが多いように私には思えます。
このストーリーでは、負の側面だけが強調されており、聴いている新入社員は恐怖と不安を抱くだけで、将来の明るい夢を持てなくなってしまいます。
思うに、まず真実を語るために「明るい未来」と「暗部」の両方を示し、その解決案はこのようなものだということを”具体的に”語っていくべきではないでしょうか?
明るい未来と暗部、いずれが欠けても真実は語られません。
そして、その打開策をできるだけ具体的に示さなければ、相手は不安感を抱いたままの状態に置かれてしまいます。人間の目は、どうしても暗部に向きがちですから。
では、どのくらい具体的に語るべきかという点については、説得においては極力具体的かつ詳細に打開策を語るべきでしょう。相手がイメージできるくらいまで具体性を持たせましょう。
そこまで語って、初めて相手の恐怖や不安は払拭され、あなたの主張に同意しようという前向きな気持ちになってくれるのです。
余談ではありますが、入社式の訓示では、対象人数が多いときはあまり具体的なことは話せません。
せいぜい、
「入社して最低でも半年間は、指示されたことを着実にこなしていってください。仮に、あなた方の頭の中で抵抗を感じても、それを拭い去って着実にこなすことだけを心がけて下さい。指示されたことを着実にこなしていくうちに、あなたたちの頭の中に、必ず”気づき”や”発見”が生じますから・・・」
程度のことしか言えませんが、単に、がんばって下さいと言うよりはよほど効果があるはずです。
もう一度まとめますと、マッキ―流のストーリーテリングの要諦は、明るい未来とその実現の障害となる負の側面を挙げることによって真実を語り、その真実の中で成果を見いだすための方策を具体的に示す、というものです。
これだけの情報では、どのようにストーリーを作ればいいかわからない。
という方が多いと思います。
それについては、次回もしくはその後の回で、他のストーリーテリングの書籍を参考にしつつ、具体例を示してご説明する予定です。
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