今回は、説得に関する「心理学的アプローチ」の最終回です。


「希少性の原則」というのをご存じの方も多いと思います。


典型的なのはダイヤモンドですね。

ダイヤモンドは世界中で量的に極めて少ない宝石です。

ダイヤモンドよりも他の宝石の方が美しいと感じる人も決して少なくはありません。

しかし、(おそらく)価格はダイヤモンドの方が、他の宝石よりはるかに高いはずです。

美しさに理由があるのではなく、希少な宝石であるという理由で、他の宝石よりも値段が高いのです。


もっと卑近な例を挙げれば、どのような商品でも”レアもの”は高価で取引されます。

まさに、”レア”すなわち希少であるという理由だけで。


これらは、まさに需要に対して供給が極めて少ないことから価格が上昇するという経済学の大原則で説明がつきます。


この「希少性の原則」から導き出されることは、一般に入手できる情報よりも公にされていない情報を用いた方が説得力が大きくなるということです。


アムラム・クニシンスキーが書いた「牛肉の卸売り業者による購買決定」という論文では次のような説明がなされています。


「天候の影響で、まもなく輸入牛肉が手に入りにくくなる」

という情報をもたらしたら、卸売り業者は通常の2倍以上の牛肉を購入したそうです。

さらに、

「この情報は他の誰にも知られていない」

と付け加えると、購入量はなんと600パーセントも増えたそうです。


この「希少性の原則」を説得に応用すると次のようになります。


格段に素晴らしい情報でなくとも、「これはまだ他のだれもが知らないことなのですが」という前置きをするだけで、相手は目を輝かせるに違いありません。


また、説得材料として提示するデータを「さきほど手に入れたばかりのデータで、正式な公表は来週以降になります」と付け加えるだけで、相手にとってそのデータの価値は極めて高くなります。


私ごとですが、若い頃に銀行の個人営業をやっていました。


その際、「行内限り」という赤いスタンプが押してある「他の金融商品との利回り比較表」を顧客に見せると、顧客の目が輝きを増したのを憶えています。


これは、当時、利回り比較広告が禁止もしくは制限されていたことから、

「お客様に見せるときは必ず「行内限り」というスタンプを見せて、あくまで内部資料ですが、と言いながら見せなさい」

という上司のお達しがあったからです。

(何分、管理職というのは当局にとても気をつかいますから)


私は、上司の意図に背くことなく、ただ「これは特別なお客様にしか見せることのできない資料なのですが」という一言を付け加えました。

それを聴いたお客様から、

「○○銀行にある定期預金を解約するので、来週もう一度来てもらいたい」

といううれしいお返事をいただいたことが何度もありました。


この「希少性の原則」を用いる際に絶対に留意しなければならないことがひとつあります。

それは、ハッタリや嘘、偽りを述べてはならないということです。

もし、あなたが、ハッタリ、嘘、偽りを述べていたことが相手に知られたとしたら、瞬時にあなたの信用が地に落ちてしまうからです。


この点だけをくれぐれも留意して「希少性の原則」を利用すれば、説得効果が絶大になること請け合いです。