本日は、「追憶の夜想曲」(中山七里 著 講談社)をご紹介します。
少年時代に暗い過去をもつ弁護士御子柴礼司シリーズの第2弾(第3弾以降があるかどうかはわかりませんが・・・)。
主人公の御子柴礼司は、豪腕ながらも依頼者に高額報酬を要求する”悪辣弁護士”として名をはせていました。
御子柴は、高額な報酬を得るために危ない橋をスレスレに渡ってしまうという、暴力団や悪徳政治家などにとっては有り難い存在ながら、庶民とは全くかけ離れた一匹狼の弁護士です。
そんな御子柴が、金儲けだけしか頭にない宝来弁護士の足下を見て、ある刑事事件の受任を引き継ぎます。
事件は、家庭を顧みないで家計をどん底に落としてしまった夫を殺害した容疑で、第一審で懲役16年の刑を宣告された津田亜季子の控訴審。
亜季子は、逮捕直後から一貫して夫の殺害を自白し、第一審でも罪状を認めていました。
御子柴が、拘置所で亜季子と接見した際も、亜季子は殺害を認め、ただただ刑期を短くしてもらいがために控訴したと主張します。
弁護は絶望的とも言えるこの事件を、御子柴はタダ同然の費用で引き受けます(亜季子にもその親族にも、いつも御子柴が請求するような金額は逆立ちしても出せる状態ではありません)。
かつて、別件で御子柴に煮え湯を飲まされた検事の岬恭平は、御子柴が本件を受任したと聞き、強引に本件の検察官に就任し御子柴へのリベンジを果たそうとします。
その岬でさえ、御子柴が本件のような無理筋の事件を受任したのか理解できません。金銭目的でないことは明らかです。
御子柴は、第二審をどのように戦うつもりなのでしょう・・・。
本書には、亜季子の6歳の次女倫子が随所に登場しては御子柴を怒らせたりして、とかく重くなりがちなストーリーにアクセントを加える工夫がなされています。
しかし、本職の弁護士である私から見ても完全に無理筋の事件に御子柴がどう対処していくのか、極めて興味深いところからスタートします。
やがて、事件は意外な方向に展開していき、予想もしなかった結末を迎えます。
一度読み始めたら止められなくなってしまうストーリー展開は、まさに一級品の法廷推理小説といえるでしょう。
法廷ミステリーファン必読の傑作です。
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