本日は、「検察側の罪人」(雫井脩介著 文藝春秋)をご紹介します。


本書は、司法修習生の沖野啓一郎が、検察教官の最上毅の導入研修最終講義で、

「君たちはその手に一本の剣を持っている。法律という剣だ。こいつは抜群に切れる真剣だ。法治国家においては最強の武器と言ってもいい。やくざの親分もその切っ先を見れば震え上がる・・・(中略)・・・油断はするな、君たちが頼りにする剣も決して万能とは思わないほうがいい。・・・しかし、恐れていて何も始まらない。剣を持っている者は勇者でなければならない。戦わなければならない・・・」

という訓示を聴いて感銘を受けます。


そして訓示の後、最上に「検事になりたい」と告げ、沖野を買っていた最上も喜びます。

しかし、時効撤廃前に、時効成立によって逃げ通した悪人は処罰されないという”法の限界”を示唆し、

「(逃げ延びてほくそ笑む犯人を想像すると)たまらない気持ちになる」

と、最上は沖野に話します。


この導入部分に、最上の正義という概念に対する考えが如実に表現されています。


数年後、希望どおり検事になった沖野は、東京地検で刑事部に所属していた最上の下に配属されます。

ある日、大田区で夫婦殺傷事件が起こり、最上は沖野を連れて捜査に立ち会うことに。

事件の容疑者を調べていくうちに、最上は一人の男の名前を見つけます。

実は、その男は、すでに時効になった殺人事件の重要参考人と目されていた人物でした。

しかも、その殺人事件は、最上にとって絶対に忘れることの出来ないものだったのです。


最上は、その男を夫婦殺傷事件の最大の容疑者と考え、今度こそ法の裁きを与えるべく、沖野に縷々指示を与えつつも、自らも積極的に捜査に当たります。

最上を尊敬する沖野は必死で捜査を続けますが、やがて最上の捜査方針に疑問を持ちはじめるようになり・・・。



この物語は、最上の考える正義の実現と、沖野の葛藤する心の中と行動を極めてリアルに描き挙げた作品です。

500ページ以上の大作ではありますが、目の離せない展開の連続で読者を飽きさせません。

法律家のはしくれである私の目から見ると「いくらなんでも」という場面もありますが、その点を差し引いても、ぐいぐい惹きつけられてしまう秀作です。


検察側の罪人/文藝春秋
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