試験勉強にはテキストが付きものです。


もし、テキストを自由に選ぶことが出来るのであれば、自分にとって”読みやすい”テキストを選ぶのが定石でしょう。


かなり昔のことになります。


ある非営利団体の依頼で、宅建試験の民法の講義を依頼されました。


使用されていたテキストを見てびっくり!

小さい文字で、ぎっしりと情報が詰め込まれていて、かなり難解な表現も使用されていました。


担当の方に、

「これは、初心者の受講生には読みこなせないのではないでしょうか?」

と尋ねたら、

「あら、そうですか?この本は評価が高くて、毎年使っているのですが・・・」

とのこと。

「もっとわかりやすい本を紹介してもいいですか?」

「それはまったく問題ありません」


ということで、私は書店に行って、3分分冊に別れてはいるものの1冊が薄く、文字が大きく、質問形式で入っていき、過去問も入っている、明らかに読みやすいテキストを買ってきました(自腹です)。


そして、講座で、

「みなさんに指定されているテキストは、宅建の民法としては情報過多で文字が小さくて読みにくいと私は判断しました。使いにくいと感じた方は手を挙げて下さい」

と言ったら、ほとんどの受講生が手を挙げました。


そして、あくまで一例として、私が買ってきたテキストを紹介し、

「知識はこの程度で十分ですし、過去問も掲載されています。別にこの本を使わなくても構いませんから、ご自身で使いやすいテキストを使用することをお勧めします。講座はレジュメに沿って勧めていきますので、どのテキストを使用しても問題ありませんから」

と、わかりやすいテキストの使用を強く勧めました。


ところがです。

翌週も翌々週も、受講生のほぼ全員が従来のテキストを机上に置いているではありませんか。


もしかしたら、私の講義が分かりにくくて、受講生が私の言うことを信用していないのではないかと思い、担当者の方に受講生の感想を素直に尋ねてみました。

「先生の講座はとっても評判がいいですよ。わかりやすくて声もはきはきしているとのことで。今までの講師の中で一番です」


お世辞半分としても、どうやら、受講生の評判は悪くないようです。

では、何故、私が説明したように、わかりやすいテキストに変えなかったのでしょう?


どうやら、事前に指定されていたテキストを買ってしまったので、それ以上の出費はしたくない、というのが理由だったようです。


いくら非営利団体主催といっても、些少なりとも受講料は徴収します。

さらに、不合格になったら、講座出席のために費やした時間も無駄になります。


多くの受講生にとって、その損失は数千円のテキスト代では賄えないでしょう。

なのに、数千円の余分な出費を嫌がっている。


これは、何とも不合理な話です。


しかし、人間というものは、往々にして不合理な行動を平気でとってしまうものなのです。

最初に手にしたテキストに愛着を持ってしまう。

主催団体が指定したという事実に縛られてしまう。

もしかしたら、講師の弁護士は他のテキスト出版社の回し者かもしれない(笑)


これはひとつの例で、試験勉強をしているとテキストや問題集を選ぶ際に様々なバイアスがかかってきます。

(最も大きなバイアスは、多くの合格者が使ったテキストだというものでしょう)


しかし、自分に合わないテキストを「わからんな~」と頭を抱えながら、いじいじ読み続けるのは極めてナンセンスです。


是非、ご自身に合ったわかりやすいテキストを使用することをお勧めします。

既に別のものを持っていても、変更する勇気が必要を持って下さい。


余談になりますが、娘が中学受験の時、一時SAPIXに通っていました。

SAPIXは独自教材ですので、受講する以上その教材を使用しないわけにはいきません。


しかし、私は、四谷大塚の「予習シリーズ」を買ってきて、SAPIX教材では理解しずらい部分などは適宜「予習シリーズ」で補うようにしていました。

特に、社会や理科はカラーで写真なども豊富に掲載されていましたので、予備教材としては申し分ありませんでした。


テキスト代金はかかりますが、塾の月謝やら模試の費用やらを考えれば安いものです。

何より、合格という目的を達するという意味では、決して無駄使いではありませんでした。


何でもかんでも買いそろえるというのはいかがなものかと思いますが、必要と思われるものは買ってしまって損はないと考えます。