大昔のアメリカの心理学の教授が、次のような実験をしたそうです(若干、記憶が曖昧な部分はご容赦下さい)。


受け持ちの学生の試験の解答を、助手たちに採点させたところ平均点は60点でした。


教授は、きれいな文字を書くことのできる妻に、学生たちの解答を、内容を変えないまま書き直しをさせました。


書き直した答案を、再度助手たちに採点をさせたところ、平均点は80点に上がりました。


この実験の意味するとことは、おわかりですよね。


そうです、解答用紙に書かれた文字がきれいな文字に変わっただけで、点数が高くなったということです。


私は、試験勉強をしている受験生に常々言ってきました。


「美しい文字を無理して書かなくてもいいから、丁寧にわかりやすい文字で書きなさい」と。


実は、私が大学時代にゼミでお世話になった行政法の塩野宏先生も、期末試験前に大教室で、

「文字で評価はしたくないのですが、きれいに書かれた答案を見ると、この人は何かあるな、と思ってしまいますねぇ」

とおっしゃっておられました。


実際、私が司法試験受験生の模試答案の採点のバイトをしていたころ、きちんと丁寧に書かれた答案には無意識的にいい点数を与えていたことは否定できません。


採点するのは人間です。

しかも、膨大な数の答案を読まなければなりません。

なんて書いてあるかわからないような文字で書かれた解答を見ると、当然のことですが、わざわざ解読しようとはせず、悪い点数が付いてしまうことは容易に想像できるでしょう。


中学受験で筆記試験がある場合などは、合格発表が早い分、採点者は、徹夜同然の状態でいそいで採点をしなければなりません。

書かれた文字や数式が乱雑であれば、悪印象を与えることは必至でしょう。


私は、中学受験生だった頃の娘によく言ってました。


「私立中学というところは、極端な話、どんな基準で合否を決定しても構わないんだ。文字が汚い受験生は来て欲しくないという方針なら、答案の中身を見ずに、文字が汚い受験生を自動的に不合格にすることもできないことじゃない。だから、美しい文字で書かなくてもいいから、わかりやすい文字で書きなさい」


私自身も、大学受験と司法試験受験では、答案作成には気を配りました。


大学受験の時は、くっきり太めの文字が書ける鉛筆で丁寧に書きました。

英語の答案は、筆記体ではなくブロック体でわかりやすく書くようにしました。


司法試験の時は、実はとても困ったのです。


何度も講演などで話してますので、ご存じの方が多いかも知れません。

私は、小学生低学年の時、藤田君という悪友に鉛筆の変な持ち方を教わって、それ以降、その持ち方を変えることがありませんでした。

持ち方について詳しく書くことはできませんが、イメージとしては指先を動かして書くというのではなく、ドラえもんのような手でペンを握って手首を動かして書くというようなものです。


2時間で8ページの解答用紙2通を書かなければならなかった当時の司法試験。

書くのが遅いというのは致命的な弱点です。

おそらく、通常の人の2倍の時間はかかったでしょう。


ペンの持ち方を修正する通信教育まで受講するほどでした。


それでも持ち方は修正できなかった私は、太めのサインペンで文字の間隔を空けて、丁寧な文字で答案を書くことに集中しました。

余計なことは書く余裕がありませんから、重要事項を簡潔丁寧に、かつ外すことなく書くよう心がけました。


当時の司法試験の答案は、万年筆やサインペン、ボールペンなど、消えない筆記用具で書くことが義務づけられていました。


答案用紙は白でしたので、私は迷わず黒色のくっきりした文字が書けるサインペンを使用しました。

(大学受験の時に、やや太めの文字が書ける鉛筆を使ったのと同じ意図です)


そのような文字で書いた予備校の模試では、

「簡潔にポイントを押さえた好答案です」

というコメントが書かれ、しばしば最高点で全受験生に配布される参考答案に選ばれました。


苦肉の策が効を奏したようなものですが、普通の受験生が15分くらいかける答案構成を5分で終わらせなければならないなどのハンディがありましたので、常にヒヤヒヤものだったという記憶があります。


司法研修所の即日起案(1日かけて、その日のうちに判決等をまとめる作業)でも、文字を書くのが遅いのが災いしました。


たまたま回ってきた修習生日誌に、次のようなことを書きました。

(10クラスの各クラスで順番に一人ずつ書くことを義務づけられていました。結果、毎日10人分の修習生日誌が教官室や所長室に提出されます)


「私は文字を書くのが遅くて普通の人の倍くらいの時間がかかります。文字を書くスピードが速いことが良き法曹になるための条件だとはとても思えませんので、そのような苦労を強いるのはいかがなものでしょう」


それを見た所長の指示でしょうか、その後間をおかずに、書いても書かなくてもいいような形式的な部分は省略してもかまわない、ということになりました。


民事裁判教官が

「荘司君のように文字を書くのが遅い人がいるから、形式的な部分の記述は省略しました」

と、後日教室で言っていただいた時には感激しました。


ずいぶん横道に逸れてしまいました。


通常の筆記試験では、司法研修所のような配慮はありませんので、早く、わかりやすい文字が書ける人は、正直言って”得”です。


しかし、仮に私のようなハンディがあったとしても、できるだけ採点者に読みやすい答案を作成する工夫はできます。


ペーパーテストは、提出された答案だけが評価の基準になります。

できるだけ採点者にとって読みやすい答案を作成することは、それを斟酌すれば極めて当然のことなのです。


これは、中学受験から資格試験まで、全解答がマークシートである試験以外では、必ず当てはまる鉄則ですので、よくよく頭に刻んでおいて下さいね(^O^)