私は、かつて市役所での法律相談を担当していました。


市役所での無料法律相談は、毎週月曜日にありました。

私を含めて3人の弁護士が交代で担当することになっていました。


さて、この法律相談、ある意味、ムチャクチャなスケジュールなのです。

午後1時半から午後3時半までの2時間で、何と最大8人の方の相談を受けねばなりません。

1人当たりで換算すると15分。


私は、事務所での法律相談では、延長することや相談者が遅れてくることなどを考慮して、1人当たり最低でも1時間はスケジュールを空けていました。

これが15分になり、しかも、次々と相談者がやってくることになった訳です。


最初のうちは、担当課長が、

「まあ、8人といっても、8人くることはあまりありませんし、時間は適宜交通整理していただければけっこうですよ」

と、比較的気楽なことを言ってましたので、


ああ、そうか。

商工会などの行事の一貫として法律相談に出向いた時は、3人くらいの弁護士が待機していて、相談者はあまり来なかったよな~。

と、安心しておりました。


ところが、市役所の法律相談をはじめてみると、最初のうちこそ8人来なかったり、窓口で予約していたのにすっぽかす人がいて余裕だったのですが、1,2ヶ月経過することには、満員御礼。定員以上の相談者が殺到して、くじ引きで8人を決めるという過密状態になってしまったのです。


こうなると時間との勝負です。

窓口で書いてもらった相談カルテのようなものを見て、

「はい、鈴木さん、こんにちは。今日は土地の相談ということですけど、どうなさいました?」

と、すぐに本題に入っていかねばなりません。


そして、法律相談である以上、例えば、民事調停、支払い督促、少額訴訟、などのメニューの利点や欠点を説明し、何らなの方法がとれるよう教えなければなりません。

相談者の中には、「どの方法がいいか?」という建設的なご質問をされる方もいれば、「やるべきか否か、先生、決めて下さいよ」とおっしゃる方もいます。

そういう丸投げをされる方に対しては、

「私は、一介の法律屋です。あなたの人生観にまで口だしする権利はないので、勘弁して下さいよ。やらずに我慢するも人生、険悪になること覚悟でやるも人生ですから」

と言って、いいかげんなことは決して言わないようにしてきました。


市役所の法律相談で、案外多いのが男女関係(つまり夫の不倫)ですね。


ある日、40前後の男性と女性が、「男女関係について」ということで相談にみえました。

「はい、佐藤さん(仮名)、こんにちは。男女関係のご相談ということですが、どうなさしました?」

「実は、私の夫が勤め先の女性と不倫をしまして・・・相手に対して慰謝料請求をしたいのです」

女性が言いました。

「なるほど、ところで、ご主人と相手の女性が不倫をしたという証拠、例えばメールの写真とか、手紙とか、2人で旅行に行ったときの写真だとかは、ありますか?」

と、私が尋ねると、同行してきた男性が写真や手紙を鞄から出して、

「このようなものならありますが」

と、かなり決定的ともいえる証拠をいくつか出してくれました。

「これだけの証拠ガ揃っていれば、相手もシラをきれないでしょうし、仮にシラを切りとおしたとしても、最終的には訴訟で認められると思いますよ。ところで、あなたは、この奥さんのお兄さんかご親族ですか?」

と、私は証拠を出してきた男性に尋ねました。

男性がしばらく無言でしたので、女性の方が、

「こちらが、私の主人です。不倫をした張本人の」

と言うではありませんか!


「ええ、ご主人ですか?」

「はい。お恥ずかしいことですが、家内に全部打ち明けました」

男性は、バツが悪そうな顔をしてボソボソと答えました。

「ということは、万一、裁判になったら、あなたご自身が不倫をやったという証人に立つ覚悟もあるということですか?」

「はい・・・」

「わかりました。いずれにしても相手の住所、氏名がわかっているなら、一度奥さんの方から内容証明郵便でも出してみてださいよ。書店に行けば、内容証明郵便の書き方の本を売ってますから、弁護士や司法書士に代筆を頼むより安くつくでしょう。あ、それと相手の女性に慰謝料を支払う資力はありますか?」

「最悪でも、会社は辞めないでしょうから、給与の差し押さえ・・・ですか、それは可能です」

これまた、男性の方が言いました。


「それでは、佐藤さん、ご健闘をお祈りいたします」


ということで、法律相談をひとつ終えました。

私の個人的な気持ちですが、あの夫、回し蹴りでも食らわしてやりたいと思いました。