フランスのエスプリの中に、次のようなものがありました。


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夫が帰宅すると、妻はベッドの上で知らない男とSEXをしている真っ最中でした。

怒り狂った夫が妻に対して、

「君にはぼくという夫がいながら浮気をするなんて、許せない!」

と言うと、妻は、

「私は浮気なんてしてないわ」

と平然と答えました。

「じゃあ、ぼくの目の前で君がやっていたことはなんなんだ!」

夫がますます怒り狂うと、妻は悲しそうな声でつぶやきました。

「あなたって・・・ひどい夫。だって、愛する私の言葉より、自分の目の方を信じるんですもの」


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実は、これと同じようなことが実際にあったのです。


妻との離婚問題がこじれているという男性の依頼を受けたときのことです。


夫は、妻が他の男性とラブホテルに入る写真、滞在した時間、日時、などを詳細にまとめた興信所のレポートを持っていました。

一読するだけで、妻が不倫をしていたことは明白です。

「こんな明白は証拠があれば、奥さんとの離婚はスムーズに運ぶでしょう」

と私が言うと、夫は少し申し訳なさそうな声でこう言いました。

「今さらって気はするのですが、私には、自分がこそこそと興信所に依頼したことを、妻の目の前でぶちまける勇気がないのです。ですから、先生にこのレポートをお預けしますので、私に代わって妻と離婚交渉をしてもらえませんか?」


かくなる次第で、私は夫の代理人に就任し、妻と交渉することになりました。

妻は看護師さんをしていて安定収入があり、子もなく、夫婦の協力で築いた財産(例えば持ち家)もないので、弁護士としては楽勝案件です。

「弁護士費用をドブに捨てても構わないというくらいの気持ちがおありなら、承ります」

という、いつもの念押しをして、

「当職が夫の代理人になりました。今後のご連絡等はすべて当職宛お願い申し上げます」

という趣旨の受任通知を、妻に対して送りました。


数日後、妻から事務所に電話があり、私と2人だけで会うことになりました。


「奥さん。ご主人は離婚を望んでいるだけなのです。お互い安定収入があるのですから、ここはきれいに別れていただけませんか?」

と、交信所のレポートのことは伏せて、私は妻を説得しようとしました。

「私、夫に慰謝料を払って貰いたいのです。最低でも300万円はいただきたいと思っています」

「ご主人は、あなたに暴力を振るったり、暴言を吐いたり、それ以外に、ギャンブルや酒、はたまた女性に溺れたりしたのですか?」

「いいえ。おとなしい人でした。でも先生、離婚するときに夫が妻に慰謝料を支払うのは常識じゃないですか?」

「よく雑誌に出ている芸能人の離婚記事などでは、何千万円の慰謝料を夫が支払ったというふうに書かれていますよね。しかし、ああいうのは特殊な例なのです。現実に裁判になっても、ご夫婦の現状を斟酌しますと、裁判所はご主人に対して慰謝料の支払いを命じることはないと思います」

「先生は夫の代理人ですからね。私、出るところに出て公平な判断を仰ぎたいと思います」

椅子から立ち上がろうとする妻を私は制しながら、交信所のレポートを妻の目の前に置きました。

「これをご覧下さい。調停、訴訟になったら、不貞行為(不倫)をしたあなたの方が慰謝料を支払わなければならないのですよ」

交信所のレポートを一読すると、妻はいきなりベソをかきはじめ、涙声で話し始めました。

「交信所を使うなんて・・・本当にひどい夫です・・・。私のことを以前から信じていなかったのですよね・・・。私、決して浮気なんてしてません。足をくじいてしまって困っているところを、たまたま通りがかったこの男性が、ホテルで手当してくれただけなのです」


それにしては滞在時間が長すぎる、などと追及しようと一瞬思いましたが、諦めてその日の話し合いは”お流れ”とすることにしました。

彼女相手にどのような追及をしても、あの手この手で言い逃れをして、絶対に真実を認めることはないと私は確信したからです。


やむをえず調停の場で離婚という結果を得られましたが、妻は最後まで不倫の事実を認めませんでした。



それに比べると、夫は簡単に浮気を白状してしまいます。

白状ついでに、妻に全面降伏して、妻から浮気相手の女性に対する慰謝料請求に協力するという、実に情けない夫もいます。

そのことについては、拙著「男と女の法律戦略」の冒頭で書いています。


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弁護士をやってきて、私がつくづく思うことは、夫は腕力では妻に勝りますが、駆け引きや交渉という知力では妻の方が夫よりはるかに上だということです。


恥ずかしながら、私が担当した数多い離婚訴訟の中で、妻から現実に金銭を回収できたことは一度もありません。

(「支払え」という確定判決を勝ち得ても、強制執行すらできないようにされてしまったことが何度もあります)



話はコロリと変わりますが、最近、先進国で女性の重用が盛んになりつつあります。

お隣の韓国の朴大統領も、ドイツのメルケル首相も女性です。

アメリカのFRB議長の椅子にも女性が就くことになりました。

GMをはじめ、世界的大企業のCEOにも女性が就いています。


私は、このような流れに大賛成です。

女性には、男性が逆立ちしてもかなわない知力が発揮できる分野が沢山あります。

それを生かし切っていないことを、最近の男性が気づきはじめたのではないでしょうか?