<覚せい剤やめますか、人間やめますか>


という覚せい剤事犯撲滅のためのキャッチコピーが以前ありました。

それを見るたびに、

『覚せい剤やめなくても、人間やめてない人がたくさんいるのにな~』

と、常々思ったものでした。

こんなことを書くのは、とても不謹慎かもしれませんが・・・。


私は、かつて少なく見積もっても50人以上の覚せい剤取締法違反事件を弁護してきました(ほとんどが国選弁護です)。


彼ら、彼女らに接見する際、最初にいつも尋ねることは、

「どうですか?体調は?」

ということです。


返ってくる答はほとんど、

「身柄拘束されて生活が規則正しくなったせいか、以前より体調がよくなりました」

といった内容で、実際に顔色や表情などを見ても元気そのものという印象を受けました。

(なお、弁護人と被告人との接見には警察官等の立ち合いはありませんので、警察官に遠慮してこのように言っているわけではありません)


幻覚や幻聴、はたまた禁断症状で苦しんだ、という人物は一人としていませんでした。

そういう点では、テレビドラマや小説などでは、覚せい剤の影響を著しく誇張していると言えるでしょう。


もっとも、常習犯や再犯が多いのは事実です。

そのほとんどが、

「仕事がなく暇になってしまい将来のことを考えると不安になり、あのシャッキとする快感を味わいたくて、悪いこととは知りながら、またシャブ(覚せい剤)に手を出してしまった」

というようなものです。

私の経験知では、日々真面目に仕事をしている間は「シャブ絶ち」ができている人々が多かったです。


入手経路は、みな不思議なくらい同じ供述をしているのに、一時(いっとき)驚かされました。

「夜、○○の近くでイラン人風の男から買いました」

というのが、やたらめったら多いのです(感覚的には8割以上がそういったものでした)。

○○というのは現実にある場所なので、私自身、夜間にサングラスをかけ、皮ジャンパーにジーンズという服装でうろついてみたのですが、イラン人風の男たちを見つけることはできませんでした。


当地には、覚せい剤専門の暴力団である隅田組というのがありましたから、おそらくその筋から買ったのではないかと、私なりに推測しています。

検察庁で俗称「隅田薬局」と言われていた隅田組は、営業員(組員)まで商品に手を付けることがありました。

ですから、警察としては次々と検挙される素人の覚せい剤事犯で”根掘り葉掘り”入手経路について追及せずとも、営業員(組員)を締め上げれば効率的なのだと、私は個人的に思っています。


このように、覚せい剤使用者は、ドラマのような”禁断症状”はめったに起こしません。

しかし、”覚せい剤の入手”というハードルを一度越えてしまうと、「シャッキとする快感を味わいたくなって」再度手を出してしまうことがとても多いのが事実です。


「今度は実刑を覚悟して下さいね」

拘置所で再会した(?)かつての覚せい剤事犯の被告人に、私は何度か言ったものです。

事実、初犯では執行猶予が付いても、再犯の場合はほとんど実刑に処されるのが覚せい剤事犯の特徴です。

芋ずる式に警察に見つかってしまうという点も考慮すると、興味本位で覚せい剤に手をだすのは”絶対に割が合わない”ものであります。