転職をした人が、

「以前働いていた会社から『営業秘密を持ち出した』ということで、弁護士から内容証明がきました。私には身に覚えはありません」

という相談を時々受けした。


また、転職者を雇用した顧問先の会社から、

「今回新たに雇った従業員が、前の会社の営業秘密を持ち出したということで、前の会社から弊社に対して不正競争防止法違反だといってこられました」

という相談もありました。


不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは、以下の要件に当てはまるものです。


1 秘密として管理されていること(秘密管理性)

2 事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)

3 公然と知られていないこと(非公知性)


ですから、社内秘として保管していた「顧客名簿」や「技術上のノウハウ」などを取得して、同業他社などに転職すれば、法律上は「差し止め」場合によっては「損害賠償」の対象になります。


もっとも、現実には、ワンマン社長が経営する会社から、古参社員などが辞めたとき、「かわいさ余って憎さ百倍」とばかりに、辞めた社員をいじめるために法律事務所の門を叩くケースが少なからずありました。


私はよほどのことがない限り、こういう相談を受けても依頼を受けることはありませんでした。

というのは、逆の立場の依頼を受けて元の会社に逆襲してしまった経験が多く、「営業秘密」の取得・悪用を立証することが事実上困難だということを知っていたからです。


ある事例では、「営業秘密」の不正取得という理由で訴えられましたが、相手方企業に「退職金規程」があることを知り、退職金支払いの反訴を起こし、まんまと退職金支払いに成功したことがありました。

依頼者は、

「弁護士から内容証明が来たときにはタダですめばよしと思っていたのに、退職金まで払ってもらってとてもハッピーです」

と、とても喜んでくれました。


パソコンからデータを取得するなど、明らかに「営業秘密」を不正取得したという証拠でもない限り、一時の感情にまかせて法律事務所の門を叩くことはお勧めできません(特に、企業法務専門の事務所は弁護士費用がとても高いですから)。


転職者の頭の中に叩き込まれたノウハウ等は、どうやっても消去できませんし、普段から秘密管理を徹底していれば、そう簡単に持ち出しはできないものです。


怒りの感情に縛られて、泣きっ面に蜂ということにならないよう、十分ご留意下さい。