「君、即弁するんだって。君みたいな優男が即弁したら、事件屋や暴力団の連中に取り込まれるぞ」

私が司法修習生のころ、実務修習地の長老弁護士に忠告されました。

(ちなみに、即弁というのは、先輩弁護士の事務所にお世話にならず、修習を終えたらすぐに自分の事務所を開く弁護士のことです)


長老弁護士が指摘するように、”使い勝手のいい弁護士”は、その手の人たちにとって便利なもののようです。


最近、何かと反社会的勢力との癒着が問題となっていますが、弁護士という職業は、やたらと反社会的勢力の人たちと接触する機会が多いのです。


まず、国選弁護で暴力団の構成員の弁護をしなければなりません。

私が弁護士になって、初めて受けた国選弁護事件の記録を読んでいると、

「私は、山口組○○会△△系××組の幹部をやっています」

と書いてあり、

『なに~!いきなり山口組の幹部の弁護かよ!しかも、国選ってどうよ』

と焦ったものでした。


実は、暴力団組織の名称は、魏志倭人伝に出てくる漢委奴国のようなもので、群生していた小国が「漢」に貢ぎ物をして「漢」の文字を使わせてもらっていたようなものなのです。

小さな暴力団が、山口組に貢ぎ物をして組の名前の最初に「山口組」という文字を使用させてもらって、ドスを効かせようという魂胆です。


それとは知らなかった当時の私は、接見した被告人がやたらと”しょぼい”おじさんだったので、

『おかしいなあ。あれで本当に山口組系暴力団の幹部なのだろうか・・・』

と、肩すかしを食ったような気になりました。


弁護士実務をしていて暴力団の諸氏がとても厄介に感じられるのが、何と言っても会社の破産事件です。

破産申立代理人をやると、1人や2人は「債権者本人だ」とか「債権者の代理人」だとか言って、暴力団の構成員がやってくることがあります。


”いかにも”という服装で、ドスを効かせた声で

「おお、先生。今回はえらく迷惑しているんだ。どうしてくれる」

などと凄んできます。

そのようなケースでは、私は決して自分の名刺を渡さず(途中で”その手の人”だとわかったときは、渡した名刺を取り上げます)、椅子にも座らせず、

「法的に優先権のある場合を除いて、全ての債権者は平等です。あなただけを特別扱いには絶対にしません。ご意見は債権者集会で伺います」

と、相手から目をそらさずに正論で通します。


ちなみに、名刺を出さなかったり取り戻したりするのは、「代理人弁護士と話が付いている」などというデタラメを言わせないためです。


相手が渋々帰った後、

「あ~、怖かった。これだから弁護士稼業はいやだねえ~」

と、事務の女の子たちに泣きついたりした(笑)ものでした。