裁判所の調停を利用されたことのある方はご存じでしょうが、利用したことのない方々のために調停についての説明を少々。
裁判所の調停は、民事調停と家事調停があります。
民事調停は簡易裁判所で、家事調停は家庭裁判所で行われます。
通常、2名の調停委員(家事調停は男女各1名づつ)が1つの案件に付き、申立人と相手方を交互に調停室に呼んで、話を聴いたり説得したりします。
調停委員は裁判所の委託を受けた民間人で、特別な資格はありません。時間が自由になる経営者、自営業、退職教員などの人たちです。
申立人と相手方は、顔を合わさなくて済むように配慮されており、控え室も別々で、相手が調停室にいる間、申立人控え室もしくは相手方控え室で待機します。
ですから、相手と面と向かって丁々発止することも、専門用語が飛び交うこともありません。
わからない点は、担当書記官が懇切丁寧に教えてくれます。
このような制度ですので、調停だけでまとまりそうな案件は、原則として私は依頼を受けないようにしていました(弁護士費用がもったいないからです)。
しかし、昨日のブログでも書いたように、子どもの親権争いで双方譲らず、訴訟になりそうな案件では、調停段階から依頼を受けて依頼者と一緒に調停に出頭することがありました。
今日のお話は、まさに”幼い子どもの親権争い”で、訴訟必至の案件に、妻側に付いた事例です。
依頼者の妻は、おっとりした性格の常識的な人で、幸い相手方の夫もごく常識的な人物と訊いていました。
当方は、離婚成立までの(無職の妻の生活費と子どもの養育費を合わせ)婚姻費用分担金を請求し、先方は子どもとの面接交渉を求めました。
子どもとの面接交渉について、当方本人は
「私はこんな時期に会わせたくはないのですが、夫は常識的な人で子どもに気を遣いますから、どうしてもと言われれば会わせてもいいと思っています」
と素直な気持ちを打ち明けてくれました。
そこで、当方の出方としては、婚姻費用で折り合えば、1ヶ月に1、2回は面接交渉を認めることで調停に臨むことにしました。
調停室に入り、調停委員に挨拶をすると、年配の男女の調停委員はいかにも”上から目線”という態度で接してきました。
その時、私は、とてもイヤ~な予感がしました。
まず、女性の調停委員が当方本人である妻に向かって、
「あなたの本音を教えて下さい。ご主人とお子さんの面接交渉をどう思いますか?」
と尋ねたので、当方本人は、
「本音としては・・・今の時点では会って欲しくないという気持ちが強いです」
と、答えました。
その答を聞いた女性の調停委員の表情がにわかに険しくなり、
「あなたは児童心理学を知っていますか?」
「別居するとき、あなたはご主人の承諾を得てお子さんを連れて行ったのですか?」
「子どもはあなたの独占物なんかじゃありませんよ!」
・・・・・・・・・・・・。
矢継ぎ早に、高圧的な態度で”お説教”を始めたのです。
私が、
「ちょっと待って下さい、先生。当方もその点は十分考えて・・・」
と言うと、
「弁護士さんは、私の話が終わるまで黙っていて下さい!」
と、意見を言う隙も与えない始末。
とうとう、当方本人が泣き出してしまいました。
泣きながら、
「もう嫌です。婚姻費用はいりませんから、子どもは絶対夫には会わせません」
と、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を引きつらせて断言してしまいました。
取り急ぎ控え室に連れて行って、当方本人を慰めながら意見を訊くと「面接交渉は絶対いやだという意思が固まった」とのこと。
本人が落ち着くのを見計らって、私は調停室に戻りました。
「せっかくまとまるはずの話が、先生のお話のせいで流れてしまいました。書記官を通して裁判官に強く抗議をします!」
と、怒りをぶちまけてしまいました。
あの有無を言わせない”お説教ぶり”は、退職教員だったのかもしれません。
それにしても、”大ハズレ”の調停委員に当たるととんでもないことになるということを、しみじみと実感させられた事件でした。