若い夫婦が離婚訴訟にまで発展するケースは、それほど多くありません。

婚姻生活中に形成した財産といえるものがほとんどないからです。


ただ、幼い子どもの親権を巡って、父親側がどうしても譲らない場合は、訴訟にまで発展するケースがあります。

父親に、舅、姑が付いて、

「わが家の跡取りをあんな女に任せるわけにはいかない!」

という旧来の考え方を崩そうとせず、(若い)父親も意地になってしまうのです。


かつて、幼い子どもの親権を争って若い夫婦の離婚訴訟を担当しました。

結果的には、セオリー通り、母親の依頼を受けた当方が勝訴し、判決も確定しました。

母親と言っても、ずいぶん若く、はっきりと物を言うしっかりした女性でした。


事件が終わってから半年くらい経った頃でしょうか。

依頼者だった母親から私に、次のような電話がありました。


「決められた養育費が支払われなくなったのです。(元夫の)実家に電話しても”息子はどっかに蒸発してしまったから知らない”の一言で電話を切られる始末です」


親子でグルになって嫌がらせをしているに違いないと思った私は、元夫の実家で電話し、本人と話がしたい、もし家を出たのなら居場所だけでも教えて欲しい、子どもがあなたたちの孫であるのは変わらない、などと説得したのですが、『知らぬ、存ぜぬ、自分たちは関係ない』の一辺倒。


さすがに頭に来て、依頼者であった元妻に、

「こんなことは納得できません。弁護士費用は結構ですから、元夫の両親を相手取ってお子さんの扶養料の請求をさせて下さい。あなたも、お子さんも、養育費が入らないままだと困るでしょうから」

と言って、元夫の両親相手に孫の扶養料支払いの調停を申し立てました。


ちなみに、直系血族には第一義的な扶養義務があります。

本件では、元妻の両親に収入がありませんでしたので、子どもの祖父母に当たる元夫の両親からいくらかの扶養料は取れると判断したのです。


頑固な相手方ら(元夫の両親)が調停を無視したため、審判に移行。

『これで祖父母としての自覚を思い知らせてやる!』と意気込んでいた私の事務所に、数ヶ月後、家庭裁判所から審判書が送付されてきました。


審判書を見て私は愕然としました。

主文は「本件申立を棄却する」となっているではありませんか!

理由を読むと、概ね次のようなものでした。


申立人(元妻)は、現在、朝から夕方まで工場で働いており、夜は飲食店に勤務している。

その間、子どもは親元で面倒を見てもらっている。

申立人(元妻)は、一ヶ月平均○○万円の収入を得ており、その金額を斟酌すれば、子どもは要扶養状態にあるとはいえないので、扶養料請求は認めない。


つまり、母親が昼夜働いて十分な収入があるから、祖父母には扶養義務がない、という判断なのです。


がっくり肩を落とした私は、

「これじゃあ、がんばり損じゃないか・・・」

と、何とも言えない憤りを感じたものでした。


あの若い母親がこんなにがんばっていることを、審判書を見るまで気づかなかった自分自身を恥じながら・・・。