配偶者の不倫相手に対して慰謝料請求をすると、多くの相手方は不倫自体は認めて、金額面での交渉に入るものです。


 たまに訴訟になるときに、決まって出されるのが「破綻の抗弁」です。

 つまり、不貞行為(不倫)は、配偶者らの夫婦関係が既に破綻してしまった後のことなので、不貞行為によって家庭の平穏が害されておらず、損害は発生していないので慰謝料を支払う義務はない、というものです。


 たまに、驚くような抗弁が出てくることがあります。

 題して「強姦の抗弁」とでもしておきましょう。


 つまり、自分は原告である妻の夫から強姦されたのであって、いわゆる不倫関係ではない、被害者である自分には慰謝料を支払う義務などない、というものです。

 「こんなのあり?」と思いながらも、裁判で争ってきた以上仕方がありません。

 強姦されたと主張する被告本人相手に反対尋問をしました。


「あなたは強姦されたと言いますが、暴力を振るわれたり脅されたりしたのですか?」

「いいえ」

「場所はあなたのアパートで、原告の夫と関係を持ったのはあなたのベッドの中でしょう?」

「はい」

「無理矢理ベッドに連れ込まれたのですか?」

「いいえ。でもベッドの上で私は押し倒されたのです」

「押し倒される前、ベッドの上であなたたちは何をしていたのですか?」

「・・・」

「答えたくなければ結構です。ところで、あなた自身で自分の衣服を脱いだのではありませんか?」

「いいえ、脱がされました」

「衣服がちぎれたり、伸びてしまって使い物にならなくなったりはしましたか?」

「いいえ」

「関係を持つ前でも後でもかまいません。あなたは擦り傷かなにか怪我を負いましたか?」

「いいえ」

「では、抵抗はしなかったのですか?」

「心の中では抵抗がありました。しかし、手足で抵抗することはありませんでした」

「お酒や薬を飲まされた覚えはありますか?」

「ありません」

「意識はしっかりしていたのですか?」

「はい」

「つまり、あなたと彼は、あなたの部屋のベッドで、あなたが物理的な抵抗をすることもなく、関係を持ったということですね」

「そういうことになります。でも、私は彼と関係を持つ気持ちはありませんでした」

「その翌日、会社で同僚である彼と顔を合わせていますね」

「ええ」

「彼はあなたの同僚であって上司でも先輩でもありませんよね」

「はい。でも、特別な恋愛感情は持っていませんでした」

「大変失礼ですが、あなたの男性経験は何人くらいですか?」

「・・・人並みです。何人かは答えたくありません」

「確認ですが、あなたは、強姦されたという日や翌日に警察等には行っていませんね」

「はい。仕事が忙しかったので・・・」

「普通のように会社に出勤した?」

「はい」

「反対尋問を終わります」


 私は彼女の正直さに敬服すると同時に、このような案件を法廷に持ち出してきた相手方代理人弁護士の人間性を疑いました。


 大企業が少ない割には人口が多い都市(特定は避けます)で法律事務所をやっている弁護士の中には、(あくまで私の個人的印象ですが)とんでもない輩が少なくありません。


 おそらく、彼女とその家族は、この悪徳弁護士の言うままになって法廷闘争に進んでしまったのでしょう。


 すぐに裁判、という弁護士は要注意です。