かなり昔になりますが、私の事務所に若い男性の相談者が訪れました。
細身で身長は170くらい、目鼻立ちは整っていて、やや神経質そうな印象を受けました。
「今日はどのようなご相談ですか?」
「はい、実は、5人の大学生につきまとわれているのです」
「どのようなつきまとわれ方をされているのですか?」
「彼らが僕のアパートにやってきて、近くの桜の木がある場所に行こうと誘うのです」
「あなたにとって、彼らは迷惑な存在だというわけですね」
「いえ、彼らは決して僕にとって迷惑な連中ではありません」
「無理強いしたり、宗教的な勧誘などはありませんか?」
「とんでもない、彼らは全員、真面目な東大生です」
「東大生であっても、オウム事件のようなことがありますからねぇ」
「彼らは、私のことを閣下と呼んでいるのです」
「かっか?あの敬称の”閣下”ですか?」
「はい。それで、桜の木の下で議論をしようと言ってくるのです」
「迷惑だったら断ればいいじゃないですか」
「迷惑ではないのですが・・・議論の答えが見つからないのが悩みなのです」
「それで、本日当事務所においでになった訳ですね」
「ええ、毎日、夜も眠れない有様で・・・」
「その議論というのはどのようなものですか?」
「卵が先か鶏が先か、という難問です」
(必死で平静な顔をして)
「それは、私にもわかりません。法律問題ではありませんから」
「そうですか・・・」
若干脚色をしてはいますが、大筋では本当にあった話です。
彼が立ち去った後、事務の女の子とお腹を抱えて笑ってしまったのは、いささか不謹慎だったと反省しています。