ある破産管財事件に携わったときのことです。


 破産者が個人であっても、それなりに換価できる財産のある場合には、裁判所が破産管財人を付けて負債の整理、財産の換価、配当などの業務を任せます。

 これが、実はかなりやっかいな業務で、実務に長けた書記官経験のある弁護士などが管財人に指定されることが多いようです。


 私は書記官経験はありませんが、何件か破産管財事件を担当しました。


 その中に、知人・友人たちからたくさん借金をして破産した人がいました(仮にA氏としましょう)。

 破産管財人に就任すると、まず破産者の財産が散逸するのを防ぐため、封印執行を行います。

 本件でも、A氏を伴って、A氏宅など財産所在地を回ったのですが、A氏は周りの人たちの目を避けるために、思いっきり「本人とわからない」風体をして、人目がないことを慎重に確認しながら、執行官と私を案内しました。

 その、あまりの怯えようには、いささか驚かされたくらいでした。


 事件処理が終わり、免責審尋(破産者を免責決定にするかどうか、裁判官が事情を訊く機会です)の時、十数人の債権者が裁判所に現れました。

 通常、個人破産の免責審尋で債権者が出頭してくるのは希なことでしたので、私は大いに驚きました。


 彼ら、彼女らは、破産者の知人・友人で、個人的に破産者にお金を貸した人たちでした。

 私に対して、あれこれと不満をぶつけてくるので、

 「私は破産者、つまりA氏のために働いたのではありません。債権者のみなさんに代わって働いてきたのです」

 と言ったものの、不満は収まらず、担当書記官さんが「最近の個人破産では配当が出るのはとても珍しいのです。どうか納得して下さい」と説明するなど、手続を進めるのが一苦労でした。


 この案件で、私は「知人・友人などから借金をしてしまうと、大変なことになるなぁ・・・」と、つくづく実感しました。

 もちろん、A氏は生まれ故郷に帰ることもできず、新天地(?)で新たな仕事に就いています。

 知人・友人間の借金は、人間関係を壊す原因になることがとても多いものです。

 できるなら、避けた方が無難だというのが私個人の印象です。