弁護士の中には、司法研修所を出てから全く勉強していないかのような人も、ままいます。勉強はともかくも、事件で法廷に出てくるときに全く準備をしておらず、ぶっつけ本番で乗り切ってしまう豪傑(笑)も少なからずいます。


 私が相対した弁護士さんの中にも、なかなか楽しい(依頼者にとっては困った)弁護士さんがいました。

 民事事件だったのですが、民事訴訟法の大改正について全く知らず、裁判官からあれこれ指摘されたまではよかったのですが、いざ被告本人尋問となったとき驚くべきことが起こりました(私は原告代理人でしたので、くだんの弁護士さんは尋問される被告本人の依頼を受けています)。


 被告(相手方弁護士の依頼人)の名前を、仮に山本太郎さんとしましょう。

 本人尋問は、自分の代理人弁護士、つまりこの場合でいうと山本太郎さんが依頼した相手方弁護士から先に尋問を始めます。これを主尋問といいます。


 裁判官が「では、被告代理人。尋問をはじめて下さい」と開始宣言。

 それを受けて被告代理人が開口一番、

 「まず最初に私の方からお尋ねします。あなたは山本太郎さんという人を知っていますか?」

 本人「・・・・」(無言)

 被告代理人「山本太郎さんを知らないのですか?」

 本人「・・・・」(無言)

 被告代理人「山本太郎さんを知らないはずはないでしょう?」


 どうやら、被告代理人である相手方弁護士は、山本三郎さんについて尋ねているつもりであって、自分の依頼者の名前をすっかり忘れてしまったようです。


 見るに見かねた私が、

 「先生・・・そこの証人席に座って尋問を受けている人が山本太郎さんですが・・・」と、控えめに指摘しました。

 したところ、さすがいつも場当たり的にやっている弁護士さん。

 悪びれる様子も恥じる様子もなく、

 「質問を訂正します。あなたは山本三郎さんを知っていますか?」

 何事もなかったかのように、淡々と質問を再開したのには、思わず「さすが!慣れてるだけのことはある」と、私は心の中で失笑してしまいました。


 それにつけても、普通の人にとって裁判所で尋問を受けることなど一生に一回あるかないかです。

 突然、自分を知っているか?と尋ねられて困惑している様子がまざまざと見受けられました。

 これが原因ではないのですが、その訴訟は当方の勝訴。

 相手方本人である山本太郎さんはどんな気持ちだったのか・・・本当にお察しします。