最近あまり耳にしませんが、数年前は「別れさせ屋」というお仕事がやたらと流行っているという報道がありました。


「別れさせ屋」というのは、例えば夫が浮気をしていて浮気相手と別れる気配がないときに、妻が「別れさせ屋」に頼んで夫と浮気相手を別れさせるべく依頼するというものです。

どういう方法をとるのかわかりませんが、脅迫、強要の罪に該当しそうな荒っぽい手段をとる輩もいたと聞いています。

報酬も相当高い(高かった)そうです。


某弁護士と食事をしていたときこの話題が出て、私たちは自嘲気味に「弁護士って最安値かつ合法的な別れさせ屋かもねえ」などと言って笑っておりました。


その根拠として、妻という配偶者がいることを知りながら夫と不貞行関係にある(あった)浮気相手は、多くの場合妻から損害賠償を請求されるというのが法律実務だからです。

もっともこれは法律実務の原則であり例外的な場合もありますし、有力な反対学説も存在します。

かの内田貴教授のテキストでもやたらと論理破綻した部分が目立つところで、同教授が「要件事実論」に疎いのではないかと思ってしまいかねない理由付けが書かれています。


そこで、法学徒諸氏のために私なりにこの部分を整理すると次のようになります。

一般の読者は読み飛ばしていただいて結構です。


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妻からの請求原因


浮気相手は、夫に妻あることを知りながら(故意)、夫と不貞関係を結び(違法性)、その結果として(因果関係)、妻に精神的損害をもたらして家庭の円満を侵害した(損害の発生)。


<なお、家庭の円満の破壊というのは判例上の要件です>



浮気相手の主張


夫と妻の婚姻関係はすでに破綻しており、婚姻破綻した配偶者である夫と不貞行為を結んでも(違法性)は発生しないし、妻が精神的損害を受けるはずもなく家庭はもともと円満ではなかった(損害の不発生)。


原告と●●が婚姻関係にあったことと被告と●●との関係は認める。

その余は否認または不知。


いずれにしても、請求原因である、故意・過失、違法性、因果関係、損害の発生、は原告である妻が主張・立証しなけれなならないのです。


被告の「故意」が、既婚者との関係をする意図だけか、それとも損害の発生まで予見していたことまで含むかはともかく、認否としては「関係があった」ということだけを認めておくべきでしょう。

なぜなら、「故意」の範囲が広く認められ強い故意があったと認定されると、損害が小さくても賠償が認められる恐れがあるからです(相関関係)。


答弁書の記載としては上記で差し支えなく、争点は「夫婦関係がすでに破綻していたか?」、被告の行為によって「原告が精神的損害を受け」「家庭の円満が破壊された」か?に絞られます。


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以上のように、不貞行為の相談を受けてそれなりの証拠があれば、われわれ弁護士は浮気相手に慰謝料請求の内容証明を送ります。


私の経験では、8割方の相手が不貞行為があったことを認めて示談に応じます。

その示談書に、「本示談後、乙(浮気相手)は、甲(妻)の夫●●と一切交際しないものとし、面談、架電その他いかなる手段においても接触しないものとする」という条項を入れることが多いのです(依頼者である妻が夫との関係修復を求める場合)。


要するに、不貞行為案件では、弁護士は「合法的な別れさせ屋」になるわけでして、費用も全部合わせても数十万で済みます。


「犯罪行為の共犯や教唆にならないんだから、別れさせ屋以上の金額をもらってもいいんじゃないか?」と某弁護士。

私ももっともな話だとは思いつつ「同業者(弁護士)との価格競争を考えると、異業種と価格比較するのは非現実的だろうなあ・・・」と言って、2人で笑っおりました。