発売日に100万部売れたとニュースで言っていた。
なんだか不思議な現象だなぁと思った。

本を買う時はいつも、その場(本屋なりamazonなり)での出会いや直観を信じることにしているから、流行ってるから買う、ということはしない。けど今回、『多崎つくる』は周りに読了したひとが多すぎるわりに、感想めいたことがなかなか聞かれない(「面白かったよー」以上の感想をいう人が少ない)のが気になったので、読むことにしました。


きっと誰にでもある、心の中の「未解決」の抽斗。その抽斗の中で16年も風化せずにずっと燻っていたものを、解決しようと重い腰を上げる男の物語。


面白かったよー以上の感想が言い辛いのは、おそらく誰もが身に覚えのある話だったからじゃないかと思います。つくるの心境にぴったり寄り添えることはなくても、なんとなく似た経験、似た胸の痛みを抱えていて、しかもそれは他人と迂闊に共有できるものではない。つくるが「乱れなく調和する共同体」の記憶を話した相手が、彼を動かすキーパーソンだったように、誰でもなにかしら、話せる相手にしか話せない事柄、というものがある。そんな大事な記憶をくすぐられる小説です。

私はつくるの自己不満足な感じがちょっと前の自分の姿と重なり、とても共感できます。欲しいものを欲しいと言う資格が自分にはないんじゃないか、そんな漠然とした不安から、いろいろなものをすっぽり呑み込み、思考停止に陥ってしまう。そんな自分に気づきながらも動くことさえできない。欲しいのに、欲しくないふりをして、自分に嘘をついて、なにを守っていたのかな。

売れるには、売れるだけのりゆうがあるとすれば、なんだろう。
この物語をタイムリーにを欲している人がたくさんいるから。もしくは、村上春樹の物語には、欲しいものが描かれていると信じている人がたくさんいるから、かな。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/文藝春秋
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