6月19日、米国のユタ州ソルトレイクシティで、統一栄養補助食品連合会が主催するサプリメント(健康補助食品)関連の会議が行われた。“サプリメント界の中心地”とも言われるソルトレイクシティに拠点を置く同連合会は、自然食品やサプリメント関連の国際的な企業を束ねる組織だ。

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 世界のサプリ市場規制を検討するその会議では、日本が話題に上った。同連合会のローレン・イスラエルセン理事長は、「日本は巨大市場だ。だが2004年以降、かの地で彼ら(サプリ市場)は成長を実現できていない」と語った。米国のみならず、世界中で日本市場への注目度が高まっている。



 なぜ今日本が注目されているのか。それは、安倍政権の成長戦略の1つとして、サプリ業界の規制緩和について議論が続いているからだ。2013年6月、安倍首相は「健康食品の機能性表示を解禁いたします」と発言し、健康食品やサプリの表示規制緩和を閣議決定した。



 薬事法で定められている医療品の定義には“身体の構造または機能に影響を及ぼすもの”という文言があるため、サプリや健康食品は機能をうたってはいけない。そうすると「医薬品」となってしまうためだ。消費者庁は2013年末に「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」を設置し、機能性表示をどう規制緩和するか議論を続けている。



●規制緩和をめぐる、企業と医療の対立



 安倍発言の背景には、年間1兆円ずつ増え続ける医療費の問題がある。



 政府はこの負担を減らすために、病院で処方される薬だけではなく、サプリなどを使った「セルフメディケーション」を推進しようと考えている。要するに、病院でどんどん薬をもらって医療費に負担をかけるのではなく、軽い症状ならば栄養補助食品などを使った自助努力で健康を維持してもらおうというのだ。



 だがそんな政府の思惑に、賛否のせめぎ合いが続いている。現在は厳しく規制されているサプリの栄養機能表示を緩和することで、今以上にサプリを製造・販売していきたい企業側と、今まで通りの患者と治療費を維持したい医療側が対立している。



 安倍政権は、今回の規制緩和のモデルとして1994年に米国で制定された「栄養補助食品健康教育法」(DSHE法)を参考にしようとしている。現在日本でサプリの効能をうたえないのと同じように、米国でも94年より以前はサプリに対して非常に厳しい規制があったが、このDSHE法によって大々的な規制緩和が行われた。



 日本はサプリメント分野で“米国から20年以上遅れている”と言われる。今、安倍政権が、米国で20年前の1994年に制定されたDSHE法をモデルにしようとしていることからもそれは明らかだ。米国でも当時、今の日本と同じような、医療側とサプリ関連企業の対立があった。20年も前に規制緩和を行った米国では、その後何が起きたのか。そして今、米国はどういう市場環境にあるのか。一連の流れを振り返ってみよう。



●米国人の半数はサプリを摂取している



 米国の一般的な家庭を見たことがある人なら分かると思うが、近年のサプリ普及率は驚くほど高い。現在、米国人の半数は少なくとも1種類のサプリを摂る。国内では8万5000種類と言われるサプリが販売され、その市場規模は320億ドルに達しており、毎年6~7%の成長を続けている。特定の病気を治療するためにサプリを飲む人もおり、米国の市場規模は、2021年までに倍になると予測されている。



 米国では1994年の規制緩和から、製造や販売、有効性の主張まで、基本的に企業の自由裁量になっている。米国では食品や医療品、化粧品を管理する米食品医薬品局(FDA)の許可なしで、サプリを販売できるのだ。FDAも製品に何らかの問題が報告されない限りは、調査にも動かない。



 ただし、完全な無法地帯というわけでもない。例えば“心臓血管の健康を維持する”と効能をうたう場合、容器のどこかに“FDAに評価されていない”“この製品は治療用ではありません”といった医薬部外品表示を記載する必要がある。要するに薬ではないことを明確にする必要があるのだ。



 また、製造管理および品質管理に関する基準を満たした製造工場で生産され、容器に示された成分が間違いないかを証明する「分析試験証明書」を求められれば提示する必要がある。さらに、含有物は政府に事前に認可されたものを使う必要がある。



●規制緩和に一役買ったメル・ギブソン



 1994年の規制緩和を一気に後押ししたのは、俳優のメル・ギブソンだった。彼が出演した規制反対のCMが話題になったこともあり、FDAの規制に反対する法整備が一気に行われた。CMの内容は、武装した特殊部隊がギブソンの自宅を急襲し、ビタミンCを摂ろうとした彼を逮捕するというものだ。ロビー活動の一環としてはかなり大掛かりで、規制緩和を求める本気度がうかがえる。



 これは国民の権利に訴えたCMだった。「何を食べ、どんな健康維持をするのかは、個人に決める権利がある」という米国らしいコンセプトが根底にあったために、人々の心に響いたと言える。



 ギブソンの“逮捕劇”から20年、米国のような自由裁量になると、権利を得た消費者は賢くなることが求められる。サプリを飲んでアレルギーが出ても、それは自己責任。自分で判断するとなれば、きちんとした製品を買おうという意識が働く。ちょっと怖い気もするが、それが今米国では普通である。



 米国ではサプリがファッションになっている部分もある。サッカーのデビッド・ベッカムはオメガ3(魚のオイル成分)のサプリメントを毎日飲んでるから口が臭いというニュースが出て話題になったり、今最も人気の米女性歌手ケイティ・ペリーは毎日自分が摂る大量のサプリを写真に撮ってツイートしたことで大きな話題になった。こうした“露出”がサプリ人気を後押ししているのは間違いない。



●日本のサプリ規制は時代遅れ?



 一方で最近、サプリメント市場の現状に警鐘を鳴らす記事を多く見かけるようになった。



 例えば、ニューヨーク・タイムズ紙は2013年12月、FDAには毎年5万件の副作用の報告があると指摘。そのほかでは、記憶障害を極端に恐れた80代の男性が、月に3000ドル(約30万円)を費やして毎日50種類のサプリを摂るよう「アンチエイジング」専門医に指導されていたが、別の医師が調べたところ、ほとんどのサプリに有効性はなかったという実例を出して、サプリの危険性を訴えるニュースもあった。



 そして今、米国では奇妙な現象が起きている。規制緩和から20年を経て「FDAがある程度規制を行うべきではないか」との意見があちこちで出ているのだ。処方薬との悪い組み合わせによる健康被害や、子供や妊婦などに悪影響などが出ることも考えられるからだという。ただ、こうした情報はFDAが規制をしなくとも、きちんと情報提供や相談ができる機関の設置を企業が取り組めばクリアできるはずだ。



 日米の違いはとても興味深い。国民がサプリを適切に摂れないと考えて情報と選択肢を制限してきた日本のやり方がいいのか、自己責任だが情報と選択肢は与えるという「情報に基づく選択」がいいのか――答えを出すのは難しい。個人の考え方にもよる問題だ。



 ただ、世界的には日本のサプリ表示規制が厳しすぎると認識されている。先進国では最も厳しいと言われ、統一栄養補助食品連合会のイスラエルセン理事長もユタ州の会議で、厳しい規制のために「日本の消費者にはかなりの混乱が生まれている」と苦言を呈している。



 消費者にとって、選択肢が増えることは望ましいことだろう。きちんとした情報を得られる環境があれば、用途によってさまざまなサプリを使ってみる権利が消費者にあってもいいはずだ。それを無理に規制するのは、グローバル化し、情報が得やすくなった現代では時代遅れなのかもしれない。



 読者のみなさんの中にも病院に行って、あまりよく分からない薬を処方され、言われるがまま飲んだ経験がある人もいるのではないか。著者も最近、足の指先にしびれがあると医者に相談した際に、薬を出すと言うのでどんな薬が聞いたところ「ビタミン剤です」と言われたことがあった。単なるビタミンなら、病院で長く待たされた挙げ句に、医者で処方してもらう必要はない。サプリとして摂れるならそれに越したことはないのだ。



 少なくとも、病院で薬をもらうか、サプリで手に入れるか、それくらいの選択は自分でしたいものではある。





[伊吹太歩,Business Media 誠]